研究課題/領域番号 |
23700246
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 正之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00596497)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 身体的自己意識 / 身体所有感 / ハプティックインタフェース / ラバーハンド・イリュージョン |
研究概要 |
平成23年度の研究では,ヒトの身体的自己意識あるいは身体所有感の操作のための実験システムの開発をメインに行った.具体的には,力提示機能を有するマスタスレーブシステム(マスタ側:3自由度,スレーブ側:2自由度)を設計・作製し,実験参加者が自らフェイクあるいは仮想ボディにインタラクションすることを可能にする実験システムの構築を行った.構築した実験システムでは,ユーザはマスタデバイス(PHANToM Omni,SensAble)を自由に操作でき,ペン型のハンドルを介してタッピングやストローキングなどの刺激をフェイクハンド(ゴム手や仮想モデル)に与える.一方,本年度作製した2自由度スレーブデバイスはマスタデバイスと連動して動き,操作側とは反対側の手に同じ強度の刺激を同期/非同期で与える.このシステムにより,アクティブセルフタッチというユニークな状況を実現し,身体あるいはその一部におけるヒトの所有感について新たなアプローチを可能にした.また,構築した実験システムの身体所有感研究への有効性・可能性を確認するために,ラバーハンド・イリュージョン(RHI)パラダイムを利用した実験を行った.まず初めに,実験システムを実際に用いて,アクティブセルフタッチ(本実験ではタッピング動作を適用)においてもRHIが生じることを確認した.次のステップとして,タッピング側への力フィードバックがRHIの誘発に必要な要素の一つであるという仮説を立て,極端な例として,タッピング側でマスタデバイスを介して力フィードバックを与える場合と与えない場合でRHIにどのような差異・影響が現れるのかについて検証した.結果は予想とは異なり,2つの条件における錯覚量には有意差が見られなかった.現在は,この結果が現れた理由について検討を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,実験参加者の運動を制御・計測するために1自由度の簡単なレバー型ハプティックデバイスを設計・作製することをメインに行う予定であったが,本年度はそれよりも複雑で自由度の高い実験システム(マスタスレーブシステム)を構築することができた.これにより,身体所有感に関する実験条件の幅を各段に広げることができた.また,ラバーハンド・イリュージョン(RHI)パラダイムを用いて,構築した実験システムの有効性・可能性の確認も行うことができ,次年度以降に予定する身体所有感や体外離脱現象のメカニズムの検討・議論のための基礎・下地を築くことができた.これらの成果は,平成24年度開催の国内会議で発表することが確定しており,また現在国際会議にも投稿中である.したがって,研究は計画に沿って概ね順調に進んでいるものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として,当初の計画通り,構築した実験システムを用いて様々な角度からヒトの身体的自己意識および身体所有感についてのメカニズムを検討していく予定である.ハプティック技術の導入とアクティブセルフタッチの実現により,これまで実現困難であった条件を可能とすることができたので,当面はラバーハンド・イリュージョン(RHI)パラダイムを用いて様々な角度から身体所有感のメカニズムについて検討していく.例えば,スレーブデバイスに取り付けた力センサの情報をベースにマスタデバイスで様々な剛性・粘性を実現し,マスタ側とスレーブ側で力に不一致を与えた場合にRHIや身体所有感にどのような影響が現れるかについて調査する.また,視覚情報による操作も追加し,様々な視点(例えば,1人称視点や3人称視点,鏡像/非鏡像)でユーザの動作と連動した手の3Dグラフィックスをヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)を介して立体提示し,ヒトの持つ身体イメージと身体所有感との関係などについても検討する予定である.さらには,余裕があれば機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)や脳波(EEG)測定を用いて脳活動の観点からニューロサイエンス的な議論も試みる.fMRIやEEGでは,その性質上,一般的な機械・電子機器をそのまま使用することはできないので,これらに対応したデバイスを設計・作製し,そのデバイスを用いて実環境での実験と同様の実験を行う.実験中に実験参加者の脳の賦活を計測し,それを解析することによって各実験条件において身体所有感や体外離脱現象がどのような脳活動で生じていたかを調べる.上記の研究・実験によって得られる結果は,随時国際会議等で発表し,最終的にはそれらの知見をまとめてジャーナル等で発表する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
まず本年度分で次年度に使用する予定の研究費について,これは本年度に既に発注してあるI/Oコントローラ(LEPRACAUN,ゼネラルロボティックス株式会社)とヘッドマウント・ディスプレイ(HMZ-T1,SONY)の購入に使用する予定である.これらの商品は,生産に時間がかかる,あるいは人気商品のため入荷に時間がかかる,などの理由から本年度中には納品できなかったものである.物品費について,上記の研究に対してアプローチの幅を広げるために新しいデバイスを作製する予定であるが,既にメインとなるモータやドライバなどは本年度に購入しているのでこれらは再利用するものとし,機構や電気回路作製用の機械・電子部品を購入するために35万円程度使用することを考えている.旅費に関しては,前述のように国内会議で成果を発表することが確定しており,また,欧米で行われる国際会議での発表も予定している.さらに次年度からは,外部の研究機関でヒトを対象とする実験を行う可能性もあり,これらを考え40万円程度の使用を予定している.最後に人件費・謝礼について,本課題では前述のようにヒトを対象とした実験を行うので,実験参加者に支払う謝礼として5万円程度を考えている.
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