研究課題/領域番号 |
23700246
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 正之 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00596497)
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キーワード | 感性情報学 / 身体的自己意識 / 身体所有感 / ハプティックインタフェース / ラバーハンド・イリュージョン / 体外離脱現象 |
研究概要 |
平成24年度の研究では,昨年度に作製した装置を用いてラバーハンド・イリュージョン(RHI)に関する議論を進めるとともに,これまでに提案してきたアクティブセルフタッチを用いてヒトの身体的自己意識および身体所有感について新たなアプローチを試みた. まずRHIについては,主にアクティブセルフタッチが既存のパッシブな条件に対してどのような効果をもたらすのかについて検討を行った.13人の実験参加者に対して,視覚情報を用いないRHIに関する先行研究の実験プロトコルを用いてアクティブセルフタッチと既存の手法との比較実験を行った結果,アンケートを用いた主観的な評価においては有意差を確認することができ,これにより能動的な動作が錯覚を強くする可能性があることを示した.また,客観的な評価としてはドリフト量と体温の計測も行っており,現在はその解析を行っているところである. 本年度の研究からは,新たに体外離脱現象(OBE)に関する検討も始めた.RHIはヒトの身体部位で起こるものであるのに対して,OBEは身体全体で生じる錯覚現象である.OBE実験においてもアクティブセルフタッチを導入することと将来的にMRI環境で実験を行うことを考え,MRI対応性を持つ2自由度マスタスレーブシステムの設計・製作を行った.さらに,安全性と身体とのインタラクション計測のためにMRI対応光学式力センサの開発も新しく行った.試作機のMRI対応性はスイスの研究機関にある3Tと7TのMRIスキャナーを用いて確認しており,fMRI撮像中にアクティブセルフタッチが可能であることを示した.また,実環境において計31人の実験参加者に対してOBEが生じるかどうかなどのテストを試作機とVR環境を用いて行い,アクティブセルフタッチにおいても強いOBEが生じることを示唆した.これについて現在はさらなる検証を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,計画通りに前年度に築いた基礎・下地をもとに研究の発展を試みた.具体的には,本課題で提案している手法(アクティブセルフタッチ)を用いてRHIに関する被験者実験をいくつか行い,ヒトの身体的自己意識および身体所有感に関する興味深い新たな知見・可能性を得ることができた.また,本年度の計画では剛性や粘性といったパラメータの変化がRHIに及ぼす影響を調べる予定であったが,外部機関におけるMRI対応性実験の日程の都合上,これに先んじてアクティブセルフタッチ可能なOBE実験用のfMRI対応マスタスレーブシステムの設計・開発を行った.実際に作製したデバイスのfMRI対応性とOBE実験への適用性・可能性を示すことができ,今後の研究に対して大きく前進することができたと言える.試作機は現在スイスの研究機関にあり,近々現地のニューロサイエンティストと共同でfMRIを用いた実験を行う予定である.したがって,研究の遂行順序に若干の変更はあったものの,研究は計画に沿って概ね順調に進んでいるものと考える. 本年度の研究ではいくつかの興味深い結果が得られており,現在はその成果を論文としてまとめているところである.また,サイドワークとして今後予定している実験に必要なVR環境(仮想のボディを立体視など)の作成や測定(センシング)環境の調整なども行い,次年度の研究に対する準備もある程度整えることができた.これは予定した計画に対して大きなアドバンテージであると考える.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では,主にこれまでに得られた研究成果をまとめる.本年度の研究ではRHIとOBEに関していくつかの興味深い知見が得られたので,まずはこれらを論文として,あるいは国際会議で発表することを目指す. これと並行して,これまでに構築した実験システムを用いて引き続きヒトの身体的自己意識および身体所有感についてのメカニズムを検討していく予定である.様々な測定を行いアクティブセルフタッチの既存の手法に対する利点・有効性をさらに検証するとともに,昨年度の研究で保留とした剛性・粘性といったパラメータのRHIに対する影響についても検討する予定である.これらの実験は外部の研究機関で実験参加者を募集して実施する予定で,既にその準備は整っている. また本年度の研究では,仮想の身体を3Dグラフィックスあるいは写真を用いてヘッドマウントディスプレイ(HMD)上で立体視できるようなシステムを構築したので,これを用いて視覚情報の操作を含めた実験を行う.具体的には,視点(1人称視点や3人称視点,鏡像/非鏡像)を操作して,ヒトの持つ身体イメージと身体所有感との関係などについても検討する予定である.さらに余裕があれば,提案手法や得られた知見を片麻痺患者のリハビリテーションなどへ応用することを議論する.
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次年度の研究費の使用計画 |
まず物品費について,本年度までに既にメインデバイスの作製を終えているので,主に補修用の機械部品や電子部品の購入に充てる.また,作製したデバイスに新たにセンサ類を付加する可能性もあるので,その購入と合わせて20万円程度の使用を予定している. 次年度は本課題の最終年度であるので,積極的に国内外における会議で研究成果の発表を行っていく予定である.また,外部研究機関で被験者実験の実施も行う予定であるので,40万円程度を旅費に充てる予定である. 最後に,現在は作製したデバイスを用いてヒトを対象とした実験を多数行っている.このため,次年度は実験者および実験参加者に対する謝礼(謝金)の支払いが多くなるものと考えられる.本年度分の予算で次年度に繰り越す分は主に人件費・謝礼(その他)に充てるものとし,25万円程度の使用を考えている.
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