最終年度の研究では,これまでに作製した装置を用いてラバーハンド・イリュージョン(RHI)やフルボディ・イリュージョン(FBI)に関する検討を引き続き行うとともに,得られた知見を学術論文としてまとめる作業を行った.以下に,主な研究成果を記す. まずRHI研究に関して,これまでの研究では視覚情報なしあるいは3Dグラフィックスによるバーチャル・ハンドを用いたアドバンストな実験を行ってきたが,偽の手(木製の手にゴム手袋とメッシュ手袋を付けたもの)を用いた最もプリミティブな実験を12人の実験参加者に対して従来手法とアクティブセルフタッチを用いて行った.RHIアンケートやドリフト量測定の結果,アクティブセルフタッチ条件においてもRHIが生じることを確認した.また,ドリフト量の比較ではアクティブセルフタッチにおいて強いRHIが生じることが示唆された.これを含めてこれまでの実験結果から,身体所有感操作に対する運動主体性およびセルフタッチの重要性を明らかにすることができた.さらに新しい試みとして,身体の一部位の動作が他の身体部位の所有感に及ぼす影響について検討を行った.まず,実験参加者の人差指の動きを,ヘッドマウントディスプレイに提示した仮想の手の人差指の動きと同期/非同期させるシステムを新しく開発した.このシステムを用いて,12名の実験参加者に利き手の人差指を自由に上下運動させ,運動しない非利き手の身体所有感をRHIパラダイムを用いて評価した.結果,身体の一部位の運動のみで他の部位の身体所有感を仮想身体上に転移させることができる可能性を示した. またFBIに関しては,平成24年度に作製してfMRI対応性を確認したデバイスをスイスの研究機関に再び持ち込み,実際に行う実験のプロトコルに合わせて微調整を行った.これにより,MRI環境でFBI実験を行うためのプラットフォームを築くことができた.
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