本研究は、入院患児の生活の質(QOL)を高めることを目標に、視線計測から心の動きを探り、香り刺激を呈示することによる解決策の探求を目的とした。 呈示する静止画を閲覧する際に嗅いでいたい香り刺激を選択させたうえで、香りの有無による視線計測と心理量変化を把握する実験を実施した。視覚情報としてインタラクティブ映像形式の予防接種のプリパレーションツールを取り上げた。そのコンテンツのなかからプリパレーションに必要となる「原因説明場面」、「症状説明場面」、「患児応援場面」、「処置説明場面」、「患児称賛場面」という5つの場面を静止画として抽出し視覚刺激とした。視線計測には、Tobii社 X60を使用した。香り刺激には、ラベンダー、ティートリー、オレンジスイート、イランイラン、ペパーミントの系統の異なる5種の精油を用意した。 小学生14名を対象に実施した実験の結果、「患児応援場面」や「患児称賛場面」といった医療行為者が患児と向き合う場面ではフローラル系のイランイランが好まれ、「原因説明場面」、「症状説明場面」、「処置説明場面」といった説明場面では柑橘系のオレンジスイートが好まれるといった、場面と香りとの関係に傾向が見られた。これら選択された香りは必ずしも個々の被験者が最も好んだ香りではなく、場面ごとに適すると判断された香りは異なっていた。また、視線の動きは有意な差は見出せなかった。しかし、香りを呈示する前の視線はばらつきが多かったが、香りを呈示しながらでは特定の部分に注視点が収束する傾向がみられた。この傾向から、適すると感じた香りを嗅ぐことによって、視覚情報への集中度合いが高まったのではないかと推察した。以上の結果から、プリパレ-ションにおいて場面ごとに適する香りを呈示することは、医療行為と向き合う子どもたちの心をケアするひとつの方法として有効であることを明らかにした。
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