本研究課題では,環境の時間的不均一さに由来するゆらぎの強度自体の時間変動(高次ゆらぎ)が遺伝子発現へ及ぼす影響について,統計解析及び計算機シミュレーションを用いて明らかにした.高次ゆらぎのある系における解析手法を開発し,その手法を遺伝子発現系に適用することで,タンパク質濃度の定常的振る舞い,入力刺激に対する応答,安定性を計算し,遺伝子発現における高次ゆらぎの影響の解析を行った.具体的には,平成23年度の研究で確率微分方程式における高次ゆらぎの解析法を開発した.開発した手法を用い,様々な特徴量(外部刺激に対する応答,情報伝達におけるスペクトル増幅率や安定性)の解析的計算を行い,その成果を査読付き論文誌Physics Letters Aにおいて発表した.また,高次ゆらぎが本質的な影響を及ぼす例として,系の詳細釣り合いの破れについての解析を行った.高次ゆらぎを受けた系は詳細釣り合いが成り立たず輸送現象が起こることを明らかとし,非対称なラチェット系においてその流れの計算を解析的手法及び計算機シミュレーションにより行った.これらの成果を査読付き論文誌Journal of the Royal Society Interfaceにおいて発表した.生命現象におけるゆらぎは,時間的なゆらぎの他に構造的なゆらぎも存在する.そこで平成24年度の研究では,遺伝的振動子における構造的なゆらぎに注目し,周期の異なる振動子の結合によりおこる現象を解析的に計算した.その結果,周期のミスマッチがあることで振動子の外界信号への同期性能が向上することを明らかにし,査読付き論文誌Journal of the Royal Society Interface誌において発表した.
|