本研究「図書館利用記録の秘密性(confidentiality)についての現代的研究」では、21世紀に入って以後の図書館の利用記録の取扱いについて検討し分析を行った。図書館の利用記録は、一方で強い保護を求められ、もう一方で、それらを活用して新しいサービスを実現可能にすることが求められている。このような相反する要請のなかでは、図書館の利用記録を保持しないことで利用者を守ってきた図書館のあり方は再考を迫られる。ここで検討すべき問題は、図書館が今まで利用記録を秘密にすることで守ってきたのは何であったかを確認することであり、また、その守ってきたものが、今までの方法でしか守れないのか、別の方法をとることはできないのかを検討することである。 本研究では、アメリカ図書館協会の歴史的文書を分析することで、なぜ図書館の利用記録を保護しなければならなかったのかについて、その成り立ちから検討を行った。その結果、図書館記録の秘密性を保護することの背景には、国家権力にたいする抵抗の理念が強くみられることがわかった。憲法上保障された市民の権利を守ることを掲げるなかで、アメリカ図書館協会は利用記録の保護の取扱いを定めている。そして、その保護は単に個人を保護するのみならず、そのことによって社会制度をも保護しているといえることがわかった。 この社会制度の保護についてさらに検討を深めると、これらの保護が単に図書館の利用記録についてのみいえるものではなく、プライヴァシーを財産権ととらえる法哲学上の学説と強い関連を有することがわかった。プライヴァシーを人格権ととらえるか財産権ととらえるかは、現在法哲学のひとつの課題となっている。その中で、合衆国やEUでは、これら個人に関する情報の活用にたいして規制を始めている。図書館利用記録もまた、必然的にこの枠組みのなかで検討する必要があることがわかった。
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