本研究は、古社寺保存法制定直後より行われた文化財の修理記録『日本美術院彫刻等修理記録』(明治32年~昭和19年、奈良国立博物館蔵)を対象として、デジタルデータによるアーカイブズを形成すると同時に、アーカイブズを支える方法論について検討し、博物館および文化財研究にふさわしいアーカイブズのありかたを考究する。 平成25年度は、研究の総括としてアーカイブズの完成と公開を目指し、過去2年間にわたり作成を続けてきた、簿冊・図面類・ガラス乾板の文字データの校正作業を集中的に行った。内容が不明とされてきたガラス乾板の同定作業も継続し、撮影対象の文化財を新たに確定させることができた。 そして簿冊・図面類約370冊とガラス乾板約7千枚の画像データと、校正が完了した文字データをもとに、公開用のデータベースを構築した。設計にあたっては、アーカイブズの方法論に関する研究成果を活かし、メタデータ項目とインターフェイスを重要視した。メタデータ項目は、アーカイブズ分野の標準との整合性を確保しつつ、文化財で一般的な項目も取り入れ、両者の折衷的なものとした。また、都道府県―所蔵者―文化財の三階層からなるID番号をデータに付与し、文化財ごとのまとまりを保持できるようにした。インターフェイスは、資料の全体と部分(フォンド―ファイル―アイテム)の関係性を可視化する方法が望ましいことが事例研究より導かれたため、簿冊・図面類はファイルからページへの、ガラス乾板は都道府県―所蔵者―文化財への階層表示とし、両者の横断検索機能も付した。 データベースは館内で閲覧可能で、当館の仏教美術資料研究センターで公開する準備が整っている。この資料は昭和29年に受け入れて以降、ながく公開がまたれていたが、アーカイブズの形成によって情報共有と原本の保存がともに可能となり、文化財アーカイブズの実践的研究として成果をあげることができた。
|