研究課題/領域番号 |
23700307
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 慈子 東京大学, 総合文化研究科, 講師 (00415572)
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キーワード | 養育行動 / 認知課題 / 乳児 |
研究概要 |
本研究は、乳幼児刺激への反応性を認知課題により検討し、これらの課題の成績が個人の生育環境やストレス状況によって影響を受けるかを検討することによって、健全な養育行動の発現メカニズムを解明し、虐待・ネグレクトの予防に寄与することを目指す。 本年度はどのような人が乳児に対してどのような反応を見せるかを、フィールド実験にて検証した。通行人を対象に,協力者である母子への反応を観察した。その結果,子どもを連れていると母親のみの時より有意に多く注視する,微笑むという反応が見られ、反応は子どもおよび高齢者で多くみられた。 また、乳児刺激への特別な反応が得られる認知課題を模索するため、以下のような実験を行った。嫌悪感情は基本感情のひとつとされ、おもに病気を回避するために進化してきたと考えられている。その機能から、子どもの養育を担う女性の方が、男性に比べ嫌悪感を強く感じやすいとする先行研究がある。もしそのような解釈が正しいのであれば、養育対象である乳児の顔写真との対呈示により、嫌悪刺激に対する感じ方が影響を受ける可能性がある。そこでIAPSより選定した嫌悪写真に対する嫌悪評定値が、乳児の写真と対呈示することにより影響を受けるか否かを検討した。乳児刺激の影響を検討するために、顔刺激としては成人のものと乳児のものを用意した。顔刺激を呈示したのち、顔刺激と嫌悪刺激を対で呈示し、それらの刺激が消えた後、嫌悪刺激をどのくらい不快と感じたかを評定してもらった。その結果、参加者の性別の主効果が有意であり、女性は男性よりも嫌悪刺激に対してより不快と感じるという先行研究を追試する結果が得られた。また、男性では乳児刺激との対呈示時に大人刺激と対呈示した時より嫌悪を感じる傾向がみられ、予測と合致する結果が見られた。女性では天井効果が生じていた可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、乳幼児刺激への反応性を認知課題により検討し、これらの課題の成績が個人の生育環境やストレス状況によって影響を受けるかを検討することによって、養育行動の発現メカニズムを解明することであるが、初年度において乳児刺激への反応性を、ドット・プローブ課題、エモーショナル・ストループ課題、視覚探索課題という3つの認知課題を用いて検討した。その中で視覚探索課題において、課題の成績に個人差が認められ、この課題の成績と、生理指標(オキシトシン)の関連性を示すことができた。この関連性は乳児刺激への特別な反応との関連ではなったものの、この結果について学術誌に論文を投稿中である。本年度は、参加者を大学生以外に広げる前段階としてフィールド実験を行い、一般人の乳児への反応性を検証した。この内容についてはすでに国内学会にて発表を行った。さらに新しい認知課題を模索し、乳児刺激と嫌悪刺激との対呈示により、乳児刺激への特別な効果を確認することができた。これらの成果より、目的の達成度はおおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、フィールド実験の結果について学術誌に投稿をする。次に乳児刺激と嫌悪刺激の対呈示実験について、天井効果を生じないよう、手続きを工夫する。予測通りの結果が得られれば、嫌悪刺激実験の結果について学会での発表および学術誌での発表を行う。 また昨年、注意の幅への乳児刺激の影響を示唆する研究が発表されたため、乳児刺激と注意の関連をさらに検討していく。 乳児刺激の影響が明確にできた課題について、その成績の個人差がストレス、生育環境、生理指標と関連しているかを検討する。 自然状態での生理指標や生育環境と課題成績との関連が確認されたのち、社会的ストレス、物理的ストレス、感情誘導を用いて実験的にストレス状況を作り出し、課題の成績が影響を受けるか、また影響の受け方に個人差がみられるか否かを検証する。乳児刺激が特殊か否かを確認するため、一般的に注意を引くといわれる刺激(怒り顔や脅威刺激)で、ストレスの影響が異なるか否かも検討する。実験的なストレス操作が有効であったかを質問紙および生理指標を測定し、課題成績との関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
成果発表のための学会参加費、旅費、英文校閲費などが必要となる。また実験の実施に際しては、実験参加者および実験補助者への謝金が必要である。生理指標測定用の機器(唾液アミラーゼモニター)および試薬(オキシトシンEIAキット)を購入する予定である。質問紙のデータ入力を委託するため、その費用も必要である。
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