研究概要 |
本研究は、乳幼児刺激の認知的影響を検討し、健全な養育行動の発現メカニズムを解明することを目的とした。 初年度には成人の顔刺激に比べ、乳児の顔刺激が注意を引くかを検討した。複数行なった課題のうち、視覚探索課題のターゲットなし条件のみにおいて、反応時間が乳児顔で大人顔より短縮された。また、男性の尿中オキシトシン濃度が、刺激の種類にかかわらず視覚探索課題の反応時間、乳児に対する肯定的感情と負に相関することを示した。2年目には、通行人を対象に母子への反応を観察した。その結果、子どもに対する注視、微笑みは、子どもおよび高齢者で多くみられた。また、乳児刺激の嫌悪感情への影響を検討したところ、男性では乳児刺激が成人刺激より嫌悪感情を強化するという傾向がみられた。 最終年度には、乳児刺激がもたらす文脈的な心理状態の変化が、注意機能へどのような影響を与えるかを検討した。対象は大学生で、課題としては単純な視覚探索課題、それを応用して注意の幅を検討する認知課題、物体の階層的構造に関する注意変化を測定するNavon課題を、文脈をもたらす刺激としては、乳児刺激のほか、positive, negative, neutral の異なる感情価を惹起する写真刺激を用意した。結果、いずれの課題においても、先行研究で報告されていたようなnegativeな感情状態の視覚探索効率を高め、空間的・階層的な注意の幅を狭くする効果、positiveな感情状態の逆の効果、可愛いいと評定されるような接近欲求を惹起させる刺激のnegativeな感情状態と同様の効果については、観察されなかった。 以上の結果から、乳児刺激の注意を引き、狭くさせるような効果は、普遍的にみられるものではない可能性が示された。世代による子どもへの興味も異なるため、今後は参加者の年齢や子どもとの経験の有無なども考慮したうえでの実験が必要である。
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