研究課題/領域番号 |
23700309
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
佐藤 好幸 電気通信大学, 情報システム学研究科, 助教 (00548753)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 認知科学 / 適応現象 / ベイズ推定 / 視聴覚統合 |
研究概要 |
人間の知覚が示す適応現象の計算論的意義を,ベイズモデルを基礎とした心理実験により明らかにすることが本研究の目的である.人間は感覚入力の統計的分布の性質に応じて知覚を変化させる.分布の平均値に関する学習について二種類の適応現象が存在することが知られている.これらの決定要因を探るべく,研究を行った.本年度においては当初計画通りに,申請者がこれまで構築してきた適応現象についてのベイズモデルを基礎としてその改良および実験的検証を行った.このモデルによれば,時間差のある刺激の繰り返し提示したときに,その時間差の時系列的変化の統計的性質の違いによって二種類の適応現象をコントロールできる可能性が予測された.本研究においては刺激の時間差が重要であることより,まず,時間的に精度よく刺激生成が可能な実験系を構築した.視覚刺激および聴覚刺激がこの実験系により時間的に精度よく生成されていることを確認し,これを用いて人間を対象に実験を行った.刺激としては二種類の時系列を用いた片方は刺激の時間差の期待値がランダムウォーク的に変化し,そこに小さい乱数が足されるような刺激で,もう片方は期待値がほぼ固定されていて,その周りに大きい乱数が足されるような刺激である.モデルの改良に関しては,刺激の提示時系列に緩和効果を加えたときの挙動を解析した.実験データを解析した結果,今回の実験パラダイムにおいては,従来研究における報告に比べて被験者の適応結果が非常に不安定になってしまうことがわかった.現在はこの困難を克服するべく刺激の提示方法を工夫し,また提示する刺激を触覚刺激や,より自然な視覚刺激を使うなどの方法を模索中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画においては本年度に実験によりモデル予測が正しいかどうかの結論を出す予定であったが,実験の結果,今回の実験パラダイムにおいては,従来研究における報告に比べて被験者の適応結果が非常に不安定になってしまうことがわかり,実験を終了させることができなかった.これは,特にランダムウォーク的に変化する刺激列の提示の仕方の困難さに由来する.通常は適応の効果を調べるためにいくつかのテスト刺激を提示するが,本実験においては刺激の統計的性質が重要であるためにテスト刺激が適応刺激の統計的性質を大きく壊さないように注意しなければならない.そのため,多くのテスト刺激を与えることができず十分にデータ数をとれないことが問題となることがわかった.現在はこの困難を克服するべく刺激の提示方法を工夫し,また提示する刺激を触覚刺激や,より自然な視覚刺激を使うなどの方法を模索中である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究はモデルと実験の融合的研究である.人間の適応現象に関してモデルの構築とその実験検証を行っていく.平成24年度においては,刺激の分布の平均値に関する適応現象の実験的検証を引き続き行うとともに,理論的研究にも力を入れる.実験的検証においては,刺激の生成に工夫を凝らし,触覚刺激やより自然な視覚刺激などを使うことを考えている.これにより,刺激分布の平均値の適応現象に関するモデルの予測を検証する.また,状況をみて刺激分布の分散学習についても実験を行う可能性もある.モデル研究については,分布の分散学習について,また,平均値と分散の同時学習についてのモデルを精力的に研究する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
上述したように,実験を成功させるためには安定した実験結果を得ることが必要不可欠である.そのため,様々な種類の刺激を試すことでどのような刺激が安定した結果になるのかを検証する.そのため,触覚刺激やより自然な視覚刺激を生成可能な機器を購入予定である.また,特にモデル研究に関しては,当該分野における研究業績を持つ研究者との共同研究を計画中である.このための打ち合わせ費用も予定している.また,これらの研究成果は適宜学会などでの外部発表を行っていく.
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