研究課題/領域番号 |
23700309
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
佐藤 好幸 電気通信大学, 大学院情報システム学研究科, 助教 (00548753)
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キーワード | 認知科学 / 適応現象 / ベイズ推定 / 視聴覚統合 |
研究概要 |
人間の知覚が示す適応現象の計算論的意義を,ベイズモデルを基礎とした心理実験により明らかにすることが本研究の目的である.特に,本研究は人の知覚のベイズモデルにおける事前分布と尤度関数の学習の関係性,またそれぞれの平均値と分散の学習の関係性を探求するものである.前年度の研究において,視聴覚刺激を用いた時の人間の刺激時間差への適応がモデルから予測されるよりも不安定であり解析が困難になることがわかった.本年度においてはまず,その原因を解明するべく研究を行った.視覚知覚がベイズモデルに従うという研究は過去において数多く存在するが,聴覚知覚においては比較的少ない.そこでまず,聴覚における本研究で用いるような時間差知覚についての過去の実験結果がベイズモデルで再現可能であるかどうかをコンピューターシミュレーションを用いて解析した.その結果,確かに可能であることを示した.また,人間はベイズモデルにおける事前確率分布を学習することができるという研究は過去に多く存在するが,尤度関数に関しては実験的検証が少ない.特に,研究代表者らの過去の研究などにより,いくつかの知覚現象が尤度関数の平均値の学習により説明可能であることが示されていたが,尤度関数の分散に関しては理論的・実験的にほとんど研究がない.そこで,本年度においては尤度関数の分散を人間が学習可能であるかどうかを実験的に検証した.その結果,人間は確かに尤度関数の分散を学習可能であるが,その性質は事前分布の学習の性質とは異なることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,主に昨年度の実験によって得られた実験結果の不安定性が何に起因するのかを主眼として研究を行った.その結果,まず,聴覚における時間差知覚がベイズモデルで説明でき,さらにその際に人間は同様な時間差が続くという仮定を暗に持っていることが示された.次に,尤度関数の分散学習の実験的検証を行った.これにより,人間は尤度の分散,つまり観測の不確実性を学習可能であることを明確に示した.これは本研究計画における意義はもとより,広く人の知覚の性質にかかわる重要な成果である.さらに尤度関数の分散学習は事前分布の分散学習と異なる性質を持つことを示した.具体的には,尤度関数は事前分布よりも学習速度が速く,場合によっては10倍程度速くなることを示した.これは計算論的には,学習開始時において脳が持っている分散に対する仮定が尤度と事前分布では大きくことなることを示している.このように,従来のモデル研究だけからはわからない,尤度関数と事前分布に対する脳が持つ仮定の差の存在を実験的明らかにしたことは大きな成果である.
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今後の研究の推進方策 |
従来モデルのモデルでは尤度関数と事前分布の学習は本質的に同じものであり,違う性質を持つ理由はない.しかし本年度の研究によりそれらが異なる性質を持つことが示唆されたので,その理由や意義をより明確にすることでより妥当な尤度と事前分布の統合的学習モデルを構築し,実験的に検証を行う.また,本年度の実験においては分布の平均値は固定したまま分散のみの学習を扱っていたので,可能であれば分散と平均値の相互作用についても研究を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は最終年度であるので,実験機器については主にこれまで購入したものを用い,直接的に研究に関するものとしては,主に周辺的な機器や被験者謝金を支出する.また,本研究課題により得られた成果の発表を積極的に行い,論文投稿や学会発表に関わる費用を支出する.
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