人間の知覚が示す適応現象の計算論的意義を,ベイズモデルを基礎としたモデル研究と心理実験との相互作用により明らかにすることが本研究の目的である. 最終年度においては,前年度までの研究により明らかとなった,ベイズモデルにおける尤度関数の学習の性質をより明確にすべく研究を行った.まず,尤度関数の学習を最適に行った場合にどのような結果が得られるか理論的に導出し,それと人間の振る舞いを比較したところ両者が一致することが確かめた.つまり人間は非常に効率的に尤度関数を学習することができる.事前分布の学習については従来より同様のことが言われてきたが,それが尤度関数の学習についてもわかったこととなる.にもかかわらず,本研究により得られた尤度関数の学習速度は事前分布よりもはるかに速い.これは理論的には,学習すべきパラメータに対して学習前に持っている仮定の差により説明することができるが,なぜこのような差が生じるのかが重要な問題として残る.このように本研究では事前分布と尤度関数の学習で共通している面と異なる面を明らかとし,さらなる研究へ向けた重要な成果を得た. さらに,人間は視覚刺激の色を条件として尤度関数を複数学習し,尤度関数を素早く切り替えることができることを実験的に示した.従来,人間の感覚や運動の種々の学習においてこのような条件に応じた複数の学習が平行に行われるかどうかは重要な争点となってきた.この成果は尤度関数の学習の柔軟性を示す重要な成果である.
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