研究課題/領域番号 |
23700310
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 誠 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (50377438)
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キーワード | 言語進化 / モデル化 / シミュレーション / エージェント |
研究概要 |
本研究の目的は,自然言語の文法が言語使用者間のコミュニケーションによって動的に形成される過程を計算機シミュレーションで再現し,社会構造と言語変化の関連を示す定量的なモデルを構築することで,急激な言語変化現象の解明に新展開を図ることである.本研究は,大きく3つの段階に分けられている.(i)繰り返し学習モデルの改良,(ii)複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの構築,(iii)妥当性の検証である.今年度は,(i)および(ii)のサブタスクである認知バイアスを用いた学習モデルの改良および,大規模な複雑ネットワークの導入に関する検討を行った. 昨年度の成果により,文法の学習に認知バイアスを導入した.その結果,親から子への文法伝達は短期間で効率的に行われるものの,世代間の言語のずれが大きいことが判明した.その原因は,認知バイアスの影響による言語知識の偏りからくるものと考えられる.実際の言語獲得状況を鑑みて,間違った文法知識を修正する過程をモデル化し,その有効性を示した. また,複雑ネットワークに関しては,実験環境に問題が生じた.具体的には,高度な学習機能を持ったエージェントを多数配置すると膨大な計算時間を必要とすることである.その原因は,繰り返しモデルによる発話と文法獲得にある.現実的な計算時間に収めるため,軽度な学習機構を持ったエージェントを導入し,複雑ネットワークを構成するよう検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の予定として,(i)繰り返し学習モデルの改良,(ii)複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの実験が挙げられる.繰り返し学習モデルに関しては,文法獲得の学習機構に認知バイアスを導入し,より人間の文法獲得に近いものとなった.文法の学習に問題点が見つかっているが,その都度改良を行っている.この成果に関して2013年度日本認知科学会第30回大会で発表を行った. 複雑ネットワークを用いたシミュレーション実験に関しては,大規模な実験を行うことができなかった.その理由は,文法獲得の計算に予想以上の時間がかかることが判明したからである.この文法獲得モデルは,本来親と子の2エージェントからなる単純な文法獲得モデルであったが,これを複数のエージェントによる言語入力に対応するように修正したものである.予備実験の結果,複数の言語入力を汎化することが困難となり,文法ルールが発散してしまうという問題が判明した.これにより,現実的な実行時間では収束せず,また,現実の言語の伝搬をモデル化しているとも言い難いものとなっている. これらの問題は,研究計画にある通り,あらかじめ予測された範囲内である.したがって,現在までの達成度は,おおむね順調に進展しているといえる.この問題を解決するため,共同研究者との打ち合わせを行い,モデルを改良するための検討を行った.
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今後の研究の推進方策 |
研究体制としては,基本的には研究代表者が研究の総括,現象の分析,および実装と検証を行う.また,これまでと同様,共同研究者と連携し,定期的な打ち合わせを行うことでモデルを模索する. 計算に膨大な時間かかるという問題が発生したため,モデルの見直しを行い,大規模シミュレーションを行う予定である. 現在,(iii)妥当性の検証に向けて,実験結果を評価するための指標を模索中である.現在のところ,エージェントが発話する言語の距離を測るために発話ごとの編集距離を導入しているが,文法の進化を図るのには適切ではない.適切な指標を導入することで,集団における言語の分布を観察することが可能となる.比較検証に困難がともなう場合,複雑ネットワーク,進化言語学,社会言語学等の専門家の意見を聞く. これらの研究成果をまとめ,人工知能または認知科学分野の国際会議で発表を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は国際会議での発表を行うために海外出張を予定していたが,次年度にまとめて報告するように方針を変更した.したがって,その分を次年度に繰り越した. 積極的に国際会議へ参加する予定である.
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