研究実績の概要 |
本研究の目的は,自然言語の文法が言語使用者間のコミュニケーションによって動的に形成される過程を計算機シミュレーションで再現し,社会構造と言語変化の関連を示す定量的なモデルを構築することで,急激な言語変化現象の解明に新展開を図ることである.本研究は,大きく3つの段階に分けられている.(i) 繰り返し学習モデルの改良,(ii) 複雑ネットワークを導入したマルチエージェントモデルの構築,(iii) 妥当性の検証である.今年度は,(i),(ii)に関しては前年度までに発生した問題の解消,また,(iii) に関して検討を行った. 高度な学習機能を持ったエージェントを多数配置すると,膨大な計算時間を必要とすることが予備実験により判明していた.その原因は,繰り返しモデルによる発話と文法獲得にある.エージェントの発話が世代を経るにつれて指数的に長くなってしまうため,組み合わせ爆発により計算時間が長くなってしまった.この問題を解決すべく,2つのアプローチを取った.(1) 軽度な学習機構の導入,(2) 学習モデルの改良である. (1) では,エージェントのコミュニケーションによる複雑ネットワークの構成を重点に置き,モデルの検討を行った.また,(2) では,問題の根底からの解消を狙ったものである.具体的には,人間同士のコミュニケーションにおいて実際に見られる単語の省略を行うことでこの問題を解消した.これは,実際の言語現象を取り入れた結果問題を解決したことから,モデルとして妥当といえる.これにより,エージェントの数を増加させて実験を行うことが可能となった. また,(iii)に関しては,さまざまなネットワークについて実験を行い,ネットワークによる言語伝播の影響について考察した.
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