研究課題/領域番号 |
23700312
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研究機関 | 新潟国際情報大学 |
研究代表者 |
伊村 知子 新潟国際情報大学, 情報文化学部, 講師 (00552423)
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キーワード | 知覚発達 / 乳児 / スリット視 / 大域的処理 / 形態知覚 / 運動視 |
研究概要 |
ヒトの乳児を対象とした知覚発達研究から、全体的な運動を知覚する能力の発達は全体的な形を知覚する能力の発達よりも遅く、生後3ヶ月頃から幼児期にかけてゆっくりと発達することが知られている。一方で、局所的な形と運動の情報を統合し、全体的な形を知覚する能力の発達過程に関しては十分に理解されていなかった。 そこで1つ目の実験では、スリット視条件下で動的な線画の知覚を調べることにより、ヒトの乳児の形態と運動の統合能力を馴化-脱馴化法を用いて検討した。まず、物体の線画がスリットの後ろで水平方向に反復運動する動画に馴化させた後、テストでは馴化試行と同じ線画と新奇な線画の静止画を左右に呈示した。テストにおける新奇な線画への注視時間の増加、すなわち脱馴化を指標とした。その結果、少なくとも生後7ヶ月の乳児では、スリット視条件で線画を知覚している可能性が認められた。しかしながら、単に乳児が線画の局所的形態特徴から線画を区別していた可能性もある。続く2つ目の実験では、線画をスリット幅に10分割し、それらの分割画像をランダムな順序で提示することにより、線画の局所的形態特徴を保持したまま、それらの時間的統合が困難になるような刺激を作成し、5-8ヶ月児の線画知覚を再検討した。その結果、乳児が分割画像からもとの線画の大域的形態を知覚したという証拠は得られなかった。これらの結果から、生後5,6ヶ月以降の乳児では、スリット視条件下で提示画像の大域的形態を知覚可能であることが示された。また、先行研究との比較から、全体的な運動、全体的な形の知覚の発達に続いて、局所的な形と運動の情報の統合が可能になることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳児を対象とした研究のため、データの収集に時間がかかると予想していたが、実際には順調に研究に協力してくれる乳児が集まり、当初の計画以上に早く研究を進めることができた。そこで、申請した研究計画に加え、形と運動を統合する課題において、乳児が局所的な手がかりのみから形態を区別してないことを確かめる追加実験をおこなった。その結果、成人と同様、乳児においても、同じ局所的な手がかりが無意味な順番で提示された場合には、規則的な順番で提示された場合よりも形と運動の統合が困難になることから、単に局所的な情報のみから形態を区別しているわけでないことが示された。現在は、これらの成果を投稿論文にまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、ヒトでは生後5ヶ月頃から形と運動の情報を時空間的に統合する能力が発達するのに対し、チンパンジーの成体では、ヒトに比べて統合の能力が弱いことが示されてきた。これらの結果は、形と運動の情報を大域的に処理する能力が、ヒトで特に発達した可能性を示唆している。最終年度は、当初の計画に沿って、以上の研究成果を論文にまとめて投稿するとともに、「スリット視」以外の課題でも、形と運動の統合能力の種差が確認できるか否かについて、ヒトの乳児やチンパンジーを対象に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果を論文にまとめ、投稿するために必要な英文校正などの費用をその他から使用する。国内外での学会でも、研究成果の発表を予定しており、旅費を使用する。形と運動の統合能力を調べるための新しい課題を開発する上で必要なソフトウェアやノートパソコンを物品費にて購入する。乳児を対象とした実験の実施にあたり、実験補助を依頼したり、謝礼を準備したりする必要があり、謝金等の経費を使用する。
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