研究課題
チンパンジーとヒト幼児を対象におこなってきた、物の操作を指標とした一連の認知発達課題をさらに発展させることで、ヒトを含む霊長類の比較認知発達スケールとして確立することを目的として研究をおこなった。非言語性の課題を直接対面場面で実施することで、ヒトとヒト以外の霊長類を同一の尺度で比較することができる。物にかかわる知性について、物理的な特性の理解に加え、社会的要因まで含めて多角的に検証をおこなう。チンパンジーの行動観察と飼育・麻酔検査補助作業に携わり、とくに四肢麻痺を発症したチンパンジーの行動の回復過程について国際学会で発表するとともに、論文として投稿した。飼育下のチンパンジーだけでなく、アフリカにくらすチンパンジーとボノボ、唯一アジアにくらす大型類人猿であるオランウータンの研究に参与している。チンパンジーとボノボは同じパン属で遺伝的には非常に近縁であるにもかかわらず、道具使用行動や社会的行動において大きな種差が見られ、ヒトの進化の要因を探るうえで示唆に富んでいる。マレー半島でおこなわれているオランウータンの野生復帰プロジェクトでは、自然環境下での母親による育児の観察などの行動・生態調査をおこなった。大型類人猿の全4種について、飼育下と野外の双方で観察をおこなってきたため、ヒトに近縁な種の認知発達について、基礎的な資料を得ることができている。ヒトについても健常発達の幼児だけでなく、発話以前の乳児や健常児以外の子どもにも課題の適用範囲を広げるため、比較可能なデータを収集するための準備や予備的な療育活動への関与をおこなった。日常の行動観察と認知発達課題を併用することで、物の操作や道具使用の進化について多角的な視点から検討をおこなうことができる。
2: おおむね順調に進展している
チンパンジーを対象とした直接対面場面での課題の実施は現在中止している。個体を限定して対面場面を再開するとともに、対面場面以外でも実施可能なように課題を改変することも検討している。全体の進捗状況としては、ヒトの子どもを対象とした研究を開始する基盤がほぼ整ったため、大きな問題はない。
チンパンジーを対象とした研究については、日常の行動観察および対面場面もしくはそれ以外での課題実施による研究の進展をはかる。新しい大型ケージ設備が導入されたことを受け、それを活用した実験的研究や行動観察をおこなう。ヒトの子どもについても比較可能な形で課題の実施を開始する。飼育下および野外でのチンパンジーなどの大型類人猿を対象におこなってきた、行動発達と母子関係の長期観察から得られた知見およびヒトの発達・育児への示唆についてまとめ公表する。マレーシアにおけるオランウータンの発達研究と母子観察を継続しておこなう。
チンパンジーおよびヒトを対象とした課題で使用する物品の購入を予定している。研究成果の発表のため国内旅費を使用するほか、オランウータンの調査継続のためマレーシアへの渡航をおこなう。
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International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
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