チンパンジーとヒト幼児を対象におこなってきた、物の操作を指標とした一連の認知発達課題をさらに発展させることで、ヒトを含む霊長類の比較認知発達スケールとして確立することを目的として研究をおこなった。非言語性の対象操作課題を直接対面場面で実施することで、ヒトとヒト以外の霊長類を同一の尺度で比較することができる。今年度は、チンパンジーとヒト幼児の描画行動について、同一の課題場面を設定して比較した結果について、共著者として成果発表をおこなった。飼育下のチンパンジーだけでなく、西アフリカ・ギニア共和国・ボッソウ周辺にくらす野生チンパンジー、および唯一アジアにくらす大型類人猿であるオランウータンを対象とした研究への関与を継続した。大型類人猿の全4種について、飼育下と野外の双方で観察をおこなってきたため、ヒトに近縁な種の認知発達について、基礎的な資料を得ることができている。これらの結果をもとに、ヒトおよび大型類人猿の種間比較についての発表をおこなった。ヒトについて、自身の子を対象とした観察と認知課題の実施をおこない、飼育下および野外でのチンパンジーなどの大型類人猿を対象におこなってきた、行動発達と母子関係の長期観察から得られた知見との比較をおこない定期的に公表した。日常の行動観察と認知発達課題を併用することで、物の操作や道具使用の進化や、ヒト化の要因、およびヒトの発達・育児への示唆などについて多角的な視点から検討をおこなうことができた。また、26年度におこなわれた国際学会においてマレーシアでおこなわれているオランウータン研究についてシンポジウムを企画し、現在それをもとに国際学術誌での特集号企画について中心となって進めている。またギニア共和国ボッソウの野生チンパンジーがおこなう石器による道具使用について国際会議で発表し、それをもとに論文を執筆して投稿した。
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