研究課題/領域番号 |
23700315
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松吉 大輔 大阪大学, 人間科学研究科, 特任助教 (70547017)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 記憶不全 / 視覚的短期記憶 / 視覚認知 / 物体認識 / 認知神経科学 |
研究概要 |
本研究の目的は、過剰な情報呈示によって生じる記憶不全のメカニズムを明らかにし、不全を防ぐための認知脳科学的指針を示す事にある。我々の脳が一度に記憶できる情報量には制約があり、その量は物体3~4つ程度である事が知られている。これまでの研究では、容量限界の個数までの物体を(諸条件によらず)コンスタントに保持できると仮定されてきた。しかし、それらの研究は比較的少ない個数の物体しか呈示しておらず、物体が大量に呈示される過負荷状況においても常に容量限界個数(3~4つ)を保持できるかどうかは明らかでない。そこで本研究では、容量限界を超える過剰な個数の物体を呈示し、記憶成績にどのような影響を与えるかを、実験心理学的手法に加えて神経科学的手法をも援用する事によって明らかにする。初年度は、行動実験によって過負荷状況における記憶成績の変化を捉える事にあった。実験の結果、容量限界を超える、過剰な数の物体が提示された場合には、思い出す事のできる物体数が減少する事(記憶不全)が明らかになった。これは、特に記憶容量の低い低容量群において顕著であり、彼らは最大3個覚えられるところ、過負荷状況では2個しか覚えられなかったのである。この記憶不全現象が、どのような原因で生じているかを明らかにするための一連の実験を行った。それらの結果から、視覚記憶の維持不全が中次な視覚レベル(線や角度・大きさ・密度などの低次な視覚レベルではなく特徴や物体というレベル)で生じており、記憶の検索に失敗しているというよりも、初期の段階での記憶符号化に失敗している(「思い出せない」のではなく、そもそも「記憶できていない」)可能性が示された。この成果は、Symposium on Cognitive Neuroscience Roboticsなどの国際シンポジウムや日本基礎心理学会などで発表し、現在、論文投稿を準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究目的は、過負荷状況における記憶不全現象そのものの存在を確認するとともに、不全が生じるメカニズムを行動実験によって明らかにするというものであった。申請計画は、1. 記憶不全生じる記憶段階、2. 不全が生じる視覚情報の次元を明らかにする予定であったが、初年度の研究では当初の目的をほぼ達成できた。前者については記憶不全が視覚的短期記憶の符号化段階で生じていること、後者については記憶不全が視覚情報処理の低次次元ではなく、特徴・物体といった中次次元で生じている事が示唆された。当初の計画以上に進展した点としては、記憶不全現象が高齢者にも見られることを明らかにした事の他、初年度末に既に2年目の研究計画である脳科学実験(脳波・fMRI)の準備・予備実験を始めた事が挙げられる。さらに、当初計画では脳波とfMRIのみであったが、脳波の空間解像度・fMRIの時間解像度の弱さを補完するという観点から、脳磁図(MEG)実験も行う事とし、既に生理学研究所に赴き予備実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記述した計画通り、着々と実験を進める。しかし、当初計画にある施設の使用を行うための十分な予算が計上されなかったため、一部を別の研究施設(生理学研究所等)において行う予定である。なお、この変更は当初の研究目的・内容に大きな影響を与えるものではない。申請書に記述した脳画像データの解析を効率的に進めるための自家製ソフトウェアは既に完成し、テスト運用を行っている。次年度は、これをさらに洗練させるとともに、ハードウェアレベルの環境強化も図り、さらなる解析の効率化を進める。その他、実験参加者プールの整備、学生アルバイトの雇用等、実験データのより効率的な取得に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度の予算は、当初考えていたよりも少ない参加者でクリアな実験結果が得られた他、成果発表を行うシンポジウムや学会が主として近隣で開催されたため、約18万円を次年度に持ち越す事となった。申請予算180万円と初年度からの持ち越し約18万円を合わせた、約198万円が次年度の研究費となるが、実験ならびに解析環境のハードウェア・ソフトウェア両レベルでの整備・強化を図るため「物品費」に70万円、成果発表等のための「旅費」に40万円、参加者謝金や実験補助アルバイト等の「謝金」に65万、英文校正・論文投稿料等「その他」の費用に23万を使用予定である。
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