研究課題/領域番号 |
23700315
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松吉 大輔 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (70547017)
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キーワード | 記憶不全 / 視覚的短期記憶 / 視覚認知 / 物体認識 / 認知神経科学 |
研究概要 |
本研究の目的は、過剰な情報呈示によって生じる記憶不全のメカニズムを明らかにし、不全を防ぐための認知脳科学的指針を示す事にある。我々の脳が一度に記憶できる情報量には制約があり、その量は物体3~4つ程度である事が知られている。これまでの研究では、容量限界の個数までの物体を(諸条件によらず)コンスタントに保持できると仮定されてきた。しかし、それらの研究は比較的少ない個数の物体しか呈示しておらず、物体が大量に呈示される過負荷状況においても常に容量限界個数(3~4つ)を保持できるかどうかは明らかでない。そこで本研究では、容量限界を超える過剰な個数の物体を呈示し、記憶成績にどのような影響を与えるかを、実験心理学的手法に加えて神経科学的手法をも援用する事によって明らかにする。 本年度は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験を行い、頭頂葉は実際に呈示されている個数を反映した活動を示すのに対し、行動実験から推定された記憶保持個数は後頭葉で表象されている可能性を示した。この結果は、頭頂葉には「行動的には失われた」情報が表象されている一方、後頭葉は行動と合致した活動をしている事を示唆している。この成果は、視覚的短期記憶が単一の脳領域ではなく、複数の脳領域から構成される複雑なシステムである事を示すものであり、既に国際学術誌(PLoS ONE)にて発表された。 また、高齢者を対象とした行動実験も行い、高齢者においては若年者よりもよりシビアな記憶不全が生じている事が判明した。本実験はさらなる解析を行いながら、論文の投稿を準備している所である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標は、行動実験によって過負荷状況における記憶成績の変化を捉える事にあった。実験の結果、容量限界を超える、過剰な数の物体が提示された場合には、思い出す事のできる物体数が減少する事(記憶不全)を明らかにした。この行動実験の研究は、現在論文投稿中である。 本年度は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験を行い、頭頂葉は実際に呈示されている個数を反映した活動を示すのに対し、行動実験から推定された記憶保持個数は後頭葉で表象されている可能性を示した。この結果は、頭頂葉には「行動的には失われた」情報が表象されている一方、後頭葉は行動と合致した活動をしている事を示唆している。この成果は、視覚的短期記憶が単一の脳領域ではなく、複数の脳領域から構成される複雑なシステムである事を示すものであり、既に国際学術誌(PLoS ONE)にて発表された。 また、高齢者においても行動実験を行い、若年成人よりも記憶不全がシビアに生じている事が判明した。本実験は、現在論文の投稿を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
論文が既に1本採択される等、これまでの研究は順調に推移しているが、研究結果からは、視覚的短期記憶の不全が当初考えていたものよりも、より複雑なシステムである事が明らかになりつつある。具体的には、fMRI研究により視覚的短期記憶が複数の脳領域の相互作用によって担われている事が判明した事が挙げられる。この結果は、記憶表象の何らかの痕跡は頭頂葉に保持されている事を示唆している。しかし一方で、行動実験からは、記憶の符号化という比較的初期段階で情報が失われる可能性を示しており、行動実験と脳科学実験との間での矛盾を見せている。従って、今後の研究では、この矛盾が何により生じているのかを明らかにする事が重要である。具体的には、遅延期間中における手がかり刺激の呈示方法や、テスト時のプローブ刺激を工夫する事により、これらの矛盾を検討できるのではないかと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予算は、当初考えていたよりも早くクリアな実験結果が得られた他、東京大学への異動のため海外発表を取りやめたしたことにより、約56万円を次年度に持ち越す事となった。 次年度分の申請予算80万円と持ち越し約56万円を合わせた、約136万円が次年度の研究費となるが、実験や成果発表に必要なソフトウェアや消耗品等の「物品費」に20万円、成果発表等のための「旅費」に55万円、参加者謝金や実験補助アルバイト等の「謝金」に40万、英文校正・論文投稿料等「その他」の費用に21万円を使用予定である。
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