研究課題/領域番号 |
23700317
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 真樹 独立行政法人理化学研究所, 象徴概念発達研究チーム, 研究員 (80345016)
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キーワード | 音声コミュニケーション / 臨界期 / ジュウシマツ / コモンマーモセット / 神経科学 / 遺伝子発現 |
研究概要 |
本研究では、ヒト言語(母語)獲得の神経基盤を解明するために、臨界期に着目して研究を行った。機能的ヒト脳モデルとして音声学習臨界期の存在が知られる鳴禽類を用い、解剖学的ヒト脳モデルとして多様な音声コミュニケーションと発達した聴覚野を持つ小型霊長類コモンマーモセットを用いて実験を行った。 1)ジアゼパム投与個体における可塑性関連分子の発現解析: 前年度の実験で、ジアゼパムを臨界期直前に投与することで歌学習臨界期の短縮がみとめられたため、本年度はジアゼパム投与個体とコントロール個体の歌制御神経核における可塑性関連分子の発現変化をin situハイブリダイゼーションにより検討した。その結果、ジアゼパム投与により歌学習臨界期が短縮していたにもかかわらず、着目していた遺伝子の発現に変化が認められなかったことから、ジアゼパムによる臨界期の変化と可塑性関連分子の転写制御は独立のメカニズムである可能性が示唆された。 2)CaMKIIa阻害剤投与による歌学習への影響: CaMKIIaの歌学習への関与を検討するため、臨界期中のHVCに直接CaMキナーゼII阻害剤を注入し、歌学習への影響を検討した。臨界期の途中でチューターを変更し、ヒナがどの時期のチューターの歌を学習したかを検討した。 3)cDNAマイクロアレイを用いた臨界期操作により変動する遺伝子群の探索: 隔離飼育とジアゼパムによる臨界期の変化と、予想していた可塑性関連分子の転写レベルでの変化が一致しなかったことから、臨界期操作によって変動する遺伝子の探索を行ったところ、数十種類の遺伝子の発現変動が認められた。 4)マーモセット脳における遺伝子発現比較:発達段階のマーモセットの脳の収集を行い、可塑性関連分子のin situハイブリダイゼーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
途中まで比較的研究計画に近い形で進めることができた。しかしながら、予想していた可塑性関連分子の発現変動のタイミングと臨界期操作による臨界期の延長・短縮のタイミングが一致しなかったことから、転写制御のレベルでは臨界期と可塑性関連分子は独立のメカニズムで制御されている可能性が示唆された。そこで、急遽ジュウシマツcDNAマイクロアレイを用いて、臨界期に関連する遺伝子の探索を行ったため、予定より遅れることとなった。また、コモンマーモセットの脳サンプルの収集にも少し時間がかかってしまったため、マーモセット関連の計画が予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の結果をもとに、当初の実験計画に加えて、臨界期関連遺伝子の探索を行う。 1)CaMKIIa阻害剤投与による歌学習への影響:本年度に実施したCaMキナーゼ阻害剤の脳への埋め込みによる歌学習への影響について、録音した歌データの解析を行い、阻害剤による歌学習への影響を検討する。 2)臨界期関連遺伝子の探索:マイクロアレイを用いて得られた候補遺伝子について、in situハイブリダイゼーションにより脳における発現パターンの確認を行う。 3)マーモセット脳における遺伝子発現比較:発達段階のマーモセット脳における可塑性関連分子の発現解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
予想と異なる結果が得られ急遽別の実験を行ったため、実験計画が遅れてしまい、未使用額が生じた。次年度は下記の項目に研究費を使用する予定である。 1)ジュウシマツのマイクロアレイ解析の確認実験(in situハイブリダイゼーション)の試薬購入 2)コモンマーモセットの遺伝子発現解析関連試薬・消耗品の購入 3)学会発表(日本分子生物学会)に必要な参加費・交通費・宿泊費 4)論文投稿にかかる費用(英文校閲・投稿料等)
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