動物に鏡を提示し、その自己の反射像を自己と認識できることは自己鏡像認知と呼ばれている。現在までに多くの動物種を対象に検討されているが、そのほとんどにおいて自己鏡像認知の成立は難しいといわれている。自己鏡像認知は、ヒトを含む一部の大型類人猿、ゾウやイルカと限られた動物種のみに認められる高度な社会的知性であり、その進化的背景にはより複雑な社会関係が関与していると考えられる。本研究では、自己鏡像認知は他者との相互関係によって成立・促進されると仮定し、鳥類(ハト、オカメインコ)と霊長類(マーモセット)を対象に、自己鏡像認知の成立要因に関する実験的分析をおこなった。 それぞれの動物種を対象に、実際の他個体や鏡を提示して、それらの刺激に対して、どのような反応が認められるか行動観察をおこなったところ、個別飼育の環境下で、他個体と接触する機会のないハトでは、自己鏡像に対して、まるで別の他個体が存在するかのように威嚇、攻撃する反応が認められた。また初めて対面する見慣れない他個体と鏡像を同時に提示し、どちらの刺激の前により長く滞在するか調べたところ、実際の個体よりも鏡像の前にいるケースが多く観察された。集団飼育下にあるオカメインコでは、鏡を提示しても、自己鏡像を他個体と認知するような反応はほとんど認められなかった。 さらに、マーモセットについては、自己鏡像に対して、馴染みのある他個体や見知らぬ他個体とは異なった反応が認められた。それぞれの刺激に対する選好を調べたところ、一貫して馴染みのある他個体の前に長く滞在していた。観察当初は鏡像よりも見知らぬ他個体の前に滞在することが多かったが、2個体を一緒にして鏡に慣れさせることを繰り返すと、見慣れない他個体よりも自己鏡像を選好する傾向が認めらるようになった。馴染みのある他個体が一緒に鏡に映ることで、自己鏡像認知の成立は促進されることが考えられた。
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