研究課題/領域番号 |
23700325
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
林 勇吾 立命館大学, 情報理工学部, 助手 (60437085)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 協同問題解決 / 対話エージェント |
研究概要 |
本研究の目的は,異なる視点を有する少数派の視点が多数派の視点変容にどのような認知プロセスが関与しているのかを解明することである.本年度は,規則発見課題を行う複数の問題解決者が異なる視点に基づいて協同で課題を遂行するための実験プラットフォームの開発を行った.本研究では,協同問題解決に取り組む際の協同相手の振る舞いを実験的に操作する方法として,対話エージェントを利用した実験環境の設計を行った.実際の人間の替わり(さくら)を担う対話エージェントを採用することで,集団内の他のメンバーの発言内容や集団サイズなどの独立変数を調整することが可能である.このように対話エージェントを用いることによって,実験実施時にかかる人的コストを軽減でき,作業効率の大幅な向上が見込める.さらに,集団内の発話内容を厳密に統制・操作することによって,一貫した情報の操作が可能となり,操作内容の信頼性という側面においても有益であるといえる.本年度開発した対話エージェントは,集団で協同問題解決を行う実験参加者の内容をリアルタイムで解析し,定められたルールに基づいて応答するように設計されている.また,複数の人間のインタラクションを仮想的に作り出すために,マルチエージェントシステムの考えに基づき,他のエージェントの発話内容も考慮し,互いに協調しあいながら応答内容を決定していくように設計されている.次年度は,この実験システムを用いて,協同問題解決中の異なる視点を有する少数派の情報提示が,多数派の視点変容にどのような影響を及ぼすのかを実証的に検討していく.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,異なる視点に基づく協同問題解決のための実験プラットフォームの開発とその評価を中心に研究を行った.開発したシステムは,申請者が所属する機関の情報通信技術の専門家と意見交換や議論を重ねたうえで,人工知能におけるマルチエージェントシステムの考えを踏襲して設計を行った.開発段階では,Java言語を使用し,プロセス間通信を利用したネットワークアプリケーションを構築し,そのフレームワーク上で自律的に動作する複数の対話エージェントを開発した.そして,開発したシステムの信頼性を検証するために,実験システムを利用した心理実験を実施した.心理実験の実施においては,所属研究室の学生とともにシステムの有効性を検証した.特に実験では,対話エージェントが人間のさくらとしての役割を果たせるかどうかという点に注目し,システムの評価を行った.その結果,ほとんどの実験参加者が協同問題解決中の複数の協同相手(対話エージェント)に対して違和感なく,課題に取り組んでいた.また,ここで得られた発話の内容の性質は,過去に行われた人間を対象にした実験の発話の内容との大きな差は観察されなかった.なお,ここで開発したシステムとその評価の結果の成果は,学術雑誌論文として公刊される予定である(林・小川,in press).
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,平成23年度構築した実験システムを利用し,どのように異なる視点を有する他者が集団の中でどのように振る舞うことが視点変容につながるのかを実験的に検討していく.この点を探るために,社会心理学の領域で注目されてきた「少数派効果」に代表されるように,集団内で一貫して異なる視点を主張する少数派が存在する場合にそれが問題解決の視点変容にどのように影響するのかを統制実験によって検討する.実験では,(1) 異なる視点を有する少数派が存在する条件(少数派条件),(2) グループ内の参加者の半数が異なる視点の条件(対立条件),(3) 異なる視点を有するメンバーが存在しない条件(異視点なし条件)の3つの条件により検討する.実験では,異なる視点を有する他者が存在する条件(少数派条件,対立条件)のほうが,異なる視点を有するメンバーが存在しない時よりも視点変容に効果的であると予想される.そして,グループの少数派が異なる視点を提示する場合(少数派条件)のパフォーマンスがグループの半数が異なる視点を有する場合(対立条件)のパフォーマンスにどれぐらいの差異が生じるのかを発話プロトコルの分析を通じて検討していく.これらの検討を通じて,集団の協同問題解決において異視点への気づきや変容をどのように作り出すことができるのかを解明し,さらには,協同学習の支援に有効な向けたインタフェースのデザインとは何かについて考えていく予定である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,実験システムを用いた要因統制実験を行い,この成果を国際会議および学術雑誌論文で公表する予定である.これらの内容を遂行していくうえで,心理実験の実施にかかる費用と成果発表にかかる費用が必要不可欠となる.心理実験にかかる費用としては,実験に参加する実験参加者に対する被験者謝金であり,実験参加者を確保するためには,重要である.また,この実験は複数のコンピュータターミナルを介したサーバ・クライアント型のシステムであるため,複数台のノートパソコンとワークステーションが必要となる.そして,本研究の実験の成果を国際的に発表するためには,それにかかる旅費や会議への参加費が必要となり,学術雑誌論文にその内容を公表する場合には,掲載費用が必要となる.本年度は,以上で述べた内容を実行に移すために,研究費を使用させていただく予定である.
|