研究概要 |
ヒトは物体を見るだけで、粗さ・柔かさのような素材の質感を経験できる。これらの質感はもともと触覚によって知覚するものであり、質感のメカニズムを理解するには、触覚がどのように素材の質感を処理し、それを視覚と結びつけるかを明らかにする必要がある。しかし触覚による素材の質感処理に関わる脳認知科学的モデルには不明な点が多く、触覚と視覚の情報がどのように結びつくかについては未だに不明である。本研究はこの点に着目し、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を駆使して、「触覚から得られる素材の質感が脳でどのように処理され、視覚と結びつくのか」について明らかにしようとするものであった。 触覚と視覚のクロスモーダル知覚を理解するためには、触覚の質感についてより深い理解が必要である。初年度は触覚による粗さ知覚のメカニズムを心理物理学実験によって検討した。その結果、粗さ知覚の速度に対する恒常性が無毛部である指では存在するが、有毛部である前腕では存在しないことを発見した。次に同じ刺激が引き起こす不快さと粗さの心理物理学関数を比較したところ、両者の関数パターンは類似しているが、不快さの場合は粗さと異なり、恒常性が無毛部でも有毛部でも存在しないことを明らかにした。この研究はPerception誌に採択された (Kitada et al., 2013)。 次年度にはfMRI実験を実施した。この実験では、参加者は視覚と触覚で呈示した素材の種類が同じであるかどうかを判断した。視覚と触覚の素材が同じ条件と異なる条件の活動を比較すると、頭頂間溝付近に活動が観察された。先行研究では形など物体の空間情報についての視触覚の統合は頭頂間溝で行われるとされていた(Kitada et al., 2006)。本研究の成果は空間情報が必ずしも必要でない素材情報の統合にも頭頂間溝が重要な役割を果たすことを示唆している。
|