研究概要 |
我々の流暢な発話は、聴覚・発話相互作用に関わる神経回路と発話運動器官とが、精緻な時間精度で円滑に連携することにより実現する。本研究では、流暢な発話制御の時間的動態とその神経回路について知見を得るために、変換聴覚フィードバック課題(Transformed Auditory Feedback: TAF)(Kawahara, 1993; Okazaki, Mori, & Cai, 2010)を用いて発声応答の解析を行った。平成23年度は以下の成果を得た。 <TAF課題における発声 F0 制御特性の男女差> 母音/a/の持続発声中の聴覚フィードバックにピッチ変調を施し、得られた発声応答を解析した。実験は開ループ系(予め変調を施した音声を発話と同時に提示する方法)で行い(Okazaki, Mori, & Cai, 2010)、成人男女の発声応答を比較した。変調信号はステップ状で、最大変調幅を100 cents (1半音)、変調持続時間を 500 ms とした。得られた発声応答の基本周波数(F0)を解析した結果、ステップ状のピッチ変調に対し、男女共に潜時 200 ms 以下の速い補正方向の発声 F0 応答が示されたが、男性群の応答ピークは女性群に比べ小さく、過渡的であった.さらに、主成分分析により発声応答成分を分離した結果、寄与率 5 % 以上の主成分として 620 ms、280 ms、及び 190 ms の主成分が得られ、それぞれの主成分の因子負荷量に有意な男女差が示された(p < .05)。この結果は、聴覚フィードバックに対する発声 F0 制御に少なくとも3つのメカニズムが存在し、それらのメカニズムに男女差があることを示唆した。この知見は,発話の流暢性の障害である吃音における男女差、すなわち、女性に比べ男性で吃音発症率が高く治癒率が低いという現象の一端を説明しうる可能性がある。
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