研究課題
今年度の前半は,前年度に引き続き,生存時間研究におけるルール・アンサンブル法の開発を行った.そこでは,実際の臨床データへの応用を通して,その有用性を確認するとともに,前年度に開発したシミュレーションシステムを用いて評価を行い.学術論文誌「応用統計学」に投稿した.さらに,バイオマーカを伴う癌臨床試験のための統計的方法として,適応的指標モデルをとり上げ,その拡張を行った.そこでは,バイオマーカを伴う臨床試験のなかで問題になる,予後因子および効果予測因子について,プロダクションルールによる探索を行うことができるようにモデルを改善した.さらに,損失関数を回帰パラメータに対するスコア検定統計量から,モデル予測に焦点を当てた偏分残差に変更した.これにより,予後因子・予測因子の両方を同時に探索できる手法の開発に成功した.その成果は,学会発表とともに,学術論文誌「データ分析の理論と応用」に投稿した.後半は,生存時間モデルに基づく傾向スコアあるいはバイオマーカ評価のためのグラフィカル接近法として,時間依存型ROC曲線の開発を行った.そこでは,Hergerty et al.(2000)の時間依存型ROC曲線の結果を深く解釈するための新たな接近法として,予測性曲線をとり上げた.時間依存型ROC曲線では,生存期間とスコア(あるいはバイオマーカ)の関連性をグラフィカルに診断することに終始していたが,予測性曲線の適用は,任意の生存期間での死亡リスクを確率的に取り扱うことを可能にした.さらに,2値応答データに対する既存のルール・アンサンブル法が最小ランプ関数の最小化に基づく通常の重回帰モデルの形式をとっていたのに対して(アダブーストと同様の形式),提案手法では,ロジスティック回帰モデルの枠組みで拡張することにより,より予測確度に優れたモデルを構築することに成功した.
1: 当初の計画以上に進展している
昨年から引き続いて開発してきた生存時間ルールアンサンブル法は,日本計算機統計学会26回シンポジウムにおいて発表を行い,その後,学術誌「応用統計学会」に投稿した.また,昨年度に投稿した,緩和ケアに対する拡張型ルール・アンサンブル法の応用に関する論文は,学術誌「日本感性工学会論文誌」に掲載された.このことは,本研究が,癌臨床試験およびその後のretrospectiveな評価の枠組みだけにとどまらず,緩和ケアなどのコメディカルな問題に対しても応用可能であり,そして,その問題の対処のために有用に活用できることを示すものと考えている.また,昨年度に研究計画を予定していた,適応的指標モデルについては,予後因子および効果予測因子を予測できるモデルとして拡張することに成功した.提案した拡張型適応的指標モデルは,生存時間データへの拡張に留まらず,2値応答データへの拡張も併せて行った.がん臨床研究における統計的方法論の研究は,抗がん剤治療の有効性評価法の開発に視点を向けられることが多い.ただし,外科的手術などでは,感染症が起きないような縫合術の開発,あるいは抗生物質投与の評価も重要である.このような場面では,2値応答データに対する評価を行う統計モデルの開発が重要であるため,2値応答データに対する拡張型指標モデルの開発は,「がん」をとりまく様々な臨床評価の場面に応用できそうである.この方法は,日本行動計量学会 第40回大会での発表とともに,学術誌「データ解析の理論と応用」に投稿した.さらに,大阪消化管がん化学療法研究会との癌臨床試験に対する共同研究では,抗がん剤治療に関する臨床試験についての4編の学術論文,2編の国際会議,1編の国内会議に関する原稿を共同で執筆した.さらに,国立感染症センターと共同で1編の学術論文が掲載された.
前半は,昨年度後半からの引き継ぎとして,時間依存型ROC曲線の開発を行う.Hergerty et al.(2000)は,2変量カーネル推定に基づく方法を提案しているが,本研究では,2変量ベキ正規分布に基づくパラメトリックな枠組みでの方法を提案したいと考えている.既存の時間依存型ROC曲線はモデル適合度評価のためのグラフィカル手法という側面をもっている.このことに留意すると,時間依存型ROC曲線の曲線下面積(AUC)を樹木構造接近法,あるいはアンサンブル学習法の損失関数に用いることが考えられる.これにより,年次生存割合に焦点を当てた樹木モデルの構築が可能である.また,2値応答に対するルール・アンサンブル法の精緻化,とくにシミュレーションによる評価を行う.とくに通常のアンサンブル学習法が苦手としている,真のモデルのなかに線形項が混在する状況での評価を行う.後半は,前年度からの課題である,ルール帰納法に関する研究を改めて実施する.ルール帰納法は,説明変数空間を座標軸に沿って縮小(ピーリング)させることから,実際の適応患者のサポート(適応患者に該当する割合)が著しく減少し,実臨床との乖離を生じることが多い.そのため,ピーリング方向の規定および,モデル評価法の再考が必要である.これらに積極的に取り組む.さらに近年,Model based treeと呼ばれる方法が提案されている.この方法は,樹木モデルによって区分された説明変数空間のそれぞれに対して線形モデルを当てはめる方法であるが,この方法は,Survival MARSと類似性をもっているように思える.そのため,これらの方法の相違点および,いずれかの方法において問題点が存在する場合には,それらを修正して新たな方法を開発したい.最後に,今年度も医師主導型臨床試験に積極的に参画し,実臨床での統計学上の問題点を掘り下げていく.
なし
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件)
Japanese Journal of Clinical Oncology
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