研究概要 |
本研究には線形な変化係数について、理論と応用の二つの側面があり、現在のところ応用的な研究を中心に成果が挙がっている。回帰分析において、時間とともに変化する回帰係数は変化係数とよばれる。Satoh & Yanagihara(AJMMS, 2010)は、変化係数と相性の良い経時測定データを扱う成長曲線モデルにおいて、変化係数を線形な基底で記述できる関数族に限定することで、変化係数曲線としての信頼区間を構成することに成功した。また、佐藤・柳原・加茂(応用統計学, 2009)では、離散分布を目的変数とする一般化推定方程式の枠組の中で、線形構造を持つ変化係数の推測方法を提案した。冨田・佐藤・柳原(応用統計学, 2010)では空間上の位置によって変化する回帰係数を変化係数曲面として取り上げ線形な変化係数の推測を提案した。本年度は加茂・冨田・佐藤(統計数理, 2011)、冨田・佐藤ら(統計数理, 2011)、Tonda, Satoh et. al(Aust. & NZ J. of Statist., 2011)など学会発表を中心に癌死亡リスクの視覚化を試みた。また、冨田・佐藤・大谷ら(長崎医学会誌, 2010)では被爆した位置によって死亡リスクが異なる変化係数曲面を利用した生存時間解析を提案し、本年度はこの研究について学会発表を中心に推し進めた。理論的にな研究としては栗木・竹村(統計数理, 1999)などによって紹介されている正規確率場の最大値分布を導出するための手法であるチューブ法を利用し、信頼区間を求めることを試みた。実際に、時間についての近似式はほぼ導出できたが、計算精度については数値実験による検討が必要な段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は理論的な研究よりも応用的な研究で成果があった。主な成果として次の論文が公開された。(I) 加茂憲一, 冨田哲治, 佐藤健一: 年齢-時代平面上における癌死亡リスクの視覚化, 統計数理, 59(2), 217-237, 2011. (II)T. Tonda, K. Satoh, T. Nakayama, K. Katanoda, T. Sobue, M. Ohtaki: A nonparametric mixed-effects model for cancer mortality, Australian & New Zealand Journal of Statistics, 53(2), 247-256, 2011. (III) 冨田哲治, 佐藤健一, 中山晃志, 片野田耕太, 祖父江友孝, 大瀧 慈: 変化係数を用いたがん死亡危険度の年次変動要因の推測, 統計数理, 59(2), 205-215, 2011.また、国際疫学会において次の研究成果を公表した。K. Satoh, K. kamo and T. Tonda: Cancer mortality risk visualization on the age-period space by regression models, IEA(International Epidemiological Association) World Congress, Edinburgh, SCOTLAND, 2011.
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今後の研究の推進方策 |
回帰分析において、時間とともに変化する回帰係数は変化係数とよばれる。Satoh & Yanagihara(AJMMS, 2010)は、変化係数と相性の良い経時測定データを扱う成長曲線モデルにおいて、変化係数を線形な基底で記述できる関数族に限定することで、変化係数曲線としての信頼区間を構成することに成功した。また、佐藤・柳原・加茂(応用統計学, 2009)では、離散分布を目的変数とする一般化推定方程式の枠組の中で、線形構造を持つ変化係数の推測方法を提案した。冨田・佐藤・柳原(応用統計学, 2010)では空間上の位置によって変化する回帰係数を変化係数曲面として取り上げ線形な変化係数の推測を提案した。さらに本年度は加茂・冨田・佐藤(統計数理, 2011)において癌死亡リスクの視覚化を試みた。今後は冨田・佐藤・大谷ら(長崎医学会誌, 2010)で提案した線形な変化係数を用いた生存時間解析を含めてこれらの応用手法を発展させたい。そして、共分散構造方程式における線形な変化係数の推測についても、一般化推定方程式および変量効果モデルとの関係を明らかにしながら解明していく。
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