研究概要 |
経時測定データにおいて時間とともに変化する回帰係数は変化係数と呼ばれる. Satoh and Yanagihara (2010) は変化係数に線形性を仮定することで, 関数としての同時信頼区間を提案した. 基底関数として直線が適用された線形な変化係数は解釈が容易であるが, 測定時点数が多くなると非線形曲線の近似として充分でないことがある. 本年度においては, 直線を1 次スプライン関数で補ったセミパラメトリックな変化係数を考え, Brumback et al.(1999) の提案した混合効果モデルを用いた推定方法を新たに提案した. 結果は応用統計学に受理された. また, 変化係数の推定は,カーネル平滑化の要領で,固定した時点周辺の近傍データに対して局所的な回帰を繰り返すことで推定され,その信頼区間も固定した各点毎に構築されるのが一般的であった.近年,Satohand Yanagihara (2010) は,変化係数の関数形を線形に限定することで,t ∈ R での同時信頼区間を提案し,t の関数としての同時信頼区間を提案した.本年度は,信頼区間を構築する領域を観測時点の範囲といった有限区間t ∈ [a, b] に限定することで,より精密な同時信頼区間の構築法を提案した.結果は応用統計学に受理された. このように当初の目的であった「線形な変化係数の信頼区間の精密化」について成果としてまとめるとともに, 申請時には到達できる予定にはなかったセミパラメトリックな変化係数の推測まで結果を得ることができた.これらの提案手法は従来,経時測定データの解析において適用されていた分散分析における時間との交互作用を時間の関数として表現し,その同時信頼区間を構成するうえで有用であり,今後の医学・生物学などで需要が増す傾向にある長期観測データの解析において重要な結果である.
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