研究課題
生化学反応システムを対象としたベイジアンモデリングに関する研究開発を実施した。状態空間モデルと呼ばれる動的潜在変数モデルをもとに、システムの動作を決定する生化学パラメータや生体内分子ネットワークの構造を観測データから逆推定する手法を開発した。本年度は方法論の研究を重点的に推進した。とりわけ、生化学反応システムに本来的に備わるロバスト性に着目し、モデリングの過程で、ノイズによる位相の揺らぎやパルス、ネットワーク構造の部分的な破壊など、摂動に対して頑強なシステムモデルを自動設計することが可能な極めてユニークな方法論を構築することに成功した。これらについては現在論文を執筆中である。 また、開発したモデリング技術を活用して抗癌剤の薬剤動態を対象とした遺伝子発現ネットワークのモデリングに着手した(現在も開発中)。他機関の共同研究者による協力のもと、薬剤耐性を獲得した肺癌細胞の全遺伝子の発現状態を観測して、得られたデータのパターンを高精度に再現できるシミュレーションモデルを設計中である。この癌細胞の転写制御に関しては、現時点で解明されていないメカニズムがかなり多いため、モデル開発において多くの課題が残されているが、予測という観点ではある程度の精度を持つモデルが出来上がりつつある。現在は未知のメカニズムの解明へ向けたトランスクリプトーム・データ解析を実施しながら、モデルのさらなる性能強化を目指して研究を行っている。
2: おおむね順調に進展している
方法論の研究に関しては概ね順調である。基本的なアイデアと解析プログラムの主要部分は現時点でほぼ完成している。ソフトウェア開発についても、一般のユーザーが何とか使えるレベルまでには仕上がっている。インタフェースやマニュアル等の整備がまだ不十分であり、その点に関しては次年度以降の課題である。一番の問題は、実問題の応用において想定外の問題が出てきたことである。モデルを作る際、事前に数パターンのデータ解析を行い、転写制御システムの特性をある程度明らかにする必要がある。本来であればそこで得られた情報をモデルに取り込みたい。しかしながら、研究対象に設定した癌細胞のシステムが複雑過ぎたためか、この過程で思わぬ躓きがあった。そこで今しばらくは、プロモータ解析(文字列のパターン認識)やその他のデータ解析手法の開発を重点的に推進する方針に転換した。ここの研究がもう少し進めば、本研究プロジェクトは大きく前進することになる。
・モデル開発の前段階に必要になるプロモータ解析(文字列のパターン認識)やその他のデータ解析手法の高度化を重点的に推進する。・ソフトウェアのインタフェースやマニュアル等の整備を実施する。また、モデル設計のスループット性をさらに高めるために、生体情報データベースとの連携を効率化する。・並列計算機を利用して、推定に要する計算の高速化を行う。・癌の全遺伝子転写制御モデルを完成させる。
・プログラム開発の効率化のためにマルチコアを搭載した高性能計算機を一台購入する。・研究成果発表ならびに開発された技術の広報活動として、今年度は国内外の学会やセミナー等で数多くの講演を行う予定である。このため出張費を少し多めに計上した。また、論文の英文校正費と出版費を計上した。
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Bioinformatics
巻: 27(8) ページ: 1172-1173
doi:10.1093/bioinformatics/btr078