研究課題/領域番号 |
23700350
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 仰一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (60334306)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | システム生物学 / 数理モデル / 遺伝子ネットワーク / 合成生物学 / 振動 / クオラムセンシング / フィードバック |
研究概要 |
微生物集団や動物組織内の細胞は、拡散性のシグナル分子を分泌し、環境中のシグナル濃度を通じて周囲の細胞密度を感知する。分化や癌化など細胞集団の運命決定に際して、細胞密度がある閾値を超えると、シグナル分子合成量が各細胞でほぼ同時に上昇する(QS: Quorum Sensing)。本研究では、計算機実験を用いて、密度依存性を調節する細胞内の分子ネットワークの特徴と(2)QSの機能を解析した。その結果、QSに際した集団内の同調性の有無と時間的な振動の有無、即ち、合計4種類の密度依存性が実現する条件を特定できた。 同調性を切り替える分子ネットワークの性質を、3つ特定した。遺伝子発現の最大レベルと最小レベルの比、遺伝子発現の協同性とシグナル分子の分泌速度、である。協同性は遺伝子発現を双安定性にし、環境変化に応じて発現レベルが不連続にスイッチする。さらに、分泌速度が大きいと、このスイッチは集団全体で同調する。一方で、分泌速度が小さいと、双安定性は各細胞でばらばらに実現し、他の細胞がスイッチしても同調してスイッチできなかった。スイッチへの双安定性の必要性は示唆されていたが、集団レベルで起きること必要であり、細胞レベルと起きるとむしる有害になることが、初めてわかった。 さらに、細胞密度がある閾値を超えると細胞集団が振動が始まる現象(DQS: Dynamical QS)でも、遺伝子発現の最大レベルと最小レベルの比は、同調性を制御できることを見出した。負のフィードバックを含む遺伝子回路の数理モデルを構築して、数値計算により示した。 ここまでの結果をまとめて論文を現在執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、QSに際した集団内の同調性の有無と時間的な振動の有無、即ち、合計4種類の密度依存性が実現する条件を特定した。さらに、転写反応に一般的に適用できる数理モデルへと発展させた。これにより、24年度に計画しているバクテリアを用いた合成生物学での実証方法を、より具体的に検討できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に明らかにした集団応答を調節する仕組みと現実との対応づけを進める。近年、集団応答の遺伝子回路の合成生物学、および、その反応キネティックスの研究が急速に進んでいる。特に、シグナル分子AHLの合成をコードする遺伝子 luxI に関して、実験と数理モデルを併用した定量的研究が複数ある。我々の理論がこれらのモデルで成立するかを数値実験で検証し、成立する場合には集団応答の制御する実験的方法を予測する。 QSについては、双安定性を生み出す正のフィードバックの2つの実験系、即ち、luxI のauto-regulationと 、AHLと複合体形成するタンパクLuxRをコードする luxR と luxI の両方がこの複合体に発現促進される系を用いる。 DQSについては、振動を生み出す負のフィードバックの2つの実験系、AHLの分解を誘導する遺伝子 aiiA の発現をAHLが促進する系と、AHLが lacI を促進して lacI が luxI を抑制する系を用いる。 また、これらの系では、プロモーター活性を再現する数理モデルの関数形が異なる。この違いが集団の応答へ及ぼす影響も検討する。様々な集団応答を実現できる普遍性を失わず、かつ、実験的に検証可能な、関数形とパラメータセットとを決定する。その後に、申請では23年度行うとした ネットワーク構造の全探索へと進む。
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次年度の研究費の使用計画 |
数値計算用サーバー・ Apple社Macpro 2.93GHz 8Core 24GB memory. 1 × 900千円論文投稿費用. 200千円合計 1,100千円
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