研究課題/領域番号 |
23700350
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 仰一 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60334306)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
組織中の細胞は、環境中の栄養濃度、細胞の空間的な分布などの情報を集団内で処理している。例えば細胞密度の情報は、各細胞が分泌するシグナル分子の環境中の濃度を通じて間接的に感知できる。細胞密度に依存した細胞集団の応答は、細胞分化、ガン化、ウィルス感染、微生物の生存戦略まで広く現れる。近年、微生物において、集団全体が揃って応答する場合、及び、各細胞がばらばらに応答しながらも応答した細胞の比率が細胞密度に依存する場合とが見出された。どちらも各細胞の遺伝子発現はスイッチ的に変化するにも拘らず、何が集団レベルの応答に違いを生み出すのだろうか? バクテリアの細胞間コミュニケーションの定量的な数理モデルの解析を通じて、集団が揃って応答する場合とばらばらに応答する場合を切り替える1つの無次元パラメータを、私は発見した。このパラメータは、細胞自身が合成するシグナル分子の量と細胞集団全体が分泌する量の比で表される。他にフリーパラメーターは無いので、集団の意思決定を定量的に予測できる。実際に、複数の種のバクテリアでこのパラメの値を調べると、興味深いことに、両方の集団応答が切り替わる境界に近かった。即ち、生存環境に応じて、両方の集団応答を選択的に利用するのに、バクテリアは最適化されていることが示唆された。さらに、負のフィードバックがあることでシグナル濃度が時間的に振動する場合や、細胞膜上の受容体を介してシグナルを認識する場合でも、このパラメータは同じ働きをした。このパラメータを実験的に制御することにより、私たちは細胞集団の意思決定をデザインし、構成的に理解できる。これらの結果をまとめた論文を現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のタイトルである「細胞密度に依存した細胞の集団的応答の分子ネットワーク設計」に対して、全面的に答える結果を得たため。集団的応答を切り替えるパラメータの境界の値を定量的に予測し、この値はモデルの詳細によらない。予測の定量性は、当初の予想を超えた発見であった。実際に、バクテリアに於いてこのパラメータ値を推定し、この境界の値に近いことも発見している。さらに、合成生物学を用いたこの理論の検証方法も提案しており、実験的検証ができる理論となっている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の主要な研究計画である、ネットワークの全探索については、現在3通りの探索方法を考案している。数理的な定義のしやすさと分子生物学的知見の2点を鑑みて、優先順位をつけて、順次、探索を進める。今年度に発見した2つのタイプの集団的な応答について、生態および進化的な意義を明らかにすべく、環境変動や遺伝子変異を導入した数値実験系の構築を進める。研究代表者は、こういった系を過去に多数手がけており、ノウハウの蓄積がある。 分子生物学的知見については、培養細胞などを用いた細胞分化およびバクテリアの合成生物学との関連づけを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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