ゲノム中の遺伝子の発現は、転写因子が配列特異的に結合することによって行われている。この機構を解明するためには、ゲノム中のどの配列にどの転写因子が結合するのかを正確に予測することが必要である。ところが、転写因子は、ただひとつの配列に特異的に結合するわけではなく、似たような他の配列に結合しうるために、転写因子が結合する領域を正確に予測することが難しい。このような現象は、DNAや転写因子が古典的に考えられてきた固い分子ではなく、結合時に結合相手に合わせて、構造変化を生じることが原因の一つであると考えられている。 当研究では、DNAや蛋白質の力学的な特性を調べることによって、転写因子の予測精度を向上させるための情報を収集することを目的とした。平成24年度では、平成23年度に作成した蛋白質・DNAの構造変化のデータベースの解析を進め、DNA界面の蛋白質の局所構造変化を分類した。その結果、DNA界面では、単なる分子表面と比較するとDNAの結合によって構造変化している領域が多く、しかも、DNAの結合前であっても、DNAの界面では構造のフレキシビリティが高いことを見出した。構造変化をしているアミノ酸領域の組成をより詳細に検討した結果、構造変化している領域では、Gly、Pro、および、親水的なアミノ酸が多いことを見出した。これらのデータをまとめて、生物物理学会等で発表し、Plos One誌に報告した。今後、得られた情報や他の既知の情報を用いて、転写因子の予測精度を向上させるための手法の開発を行なっていきたい。
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