タンパク質の薬物受容能は創薬プロセスの初期段階において非常に有益な情報であるため、その効果的な予測法が切望されている。本研究では、タンパク質の潜在的薬物受容能を計算機上で予測するための新しい方法論として、液体の統計力学理論(3D-RISM理論)に基づく予測法を開発することが目的である。本方法では、リガンドおよび水分子を統計力学的に扱うことにより、従来問題となっていた水の効果の取込および結合サイト探索の回避を可能とする。また、薬物フラグメントを用いることにより、薬物の多様性にも対処する。 平成23年度においては、タンパク質の構造が既知であり、それがリガンド結合によって変化しない場合を想定した上で、フラグメントを用いた3D-RISM-リガンドマッピング法に基づくタンパク質の薬物受容能予測法の有効性を検証した。ここでは、タンパク質の潜在的薬物受容能の一つの指標として、薬物フラグメントとしてのイソプロパノールの分布関数を高分布領域での積分したもの(つまり、フラグメントの結合能)を用いた。また、すでに薬物結合が報告されているタンパク質を数種類と薬物結合が期待できないタンパク質(コラーゲンなど)をテストタンパク質として用いた。その結果、薬物結合能が高いタンパク質は、非薬物結合性のタンパク質に比べ明らかに高いフラグメント結合能を持つことが分かった。 本研究は1年間での課題廃止のため、タンパク質の薬物結合能それ自体を予測できるまで方法論を完成するに至らなかったが、上記のように本研究で提案した方法が薬物結合能予測に有効であることは実証できた。
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