研究課題/領域番号 |
23700358
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中津井 雅彦 京都大学, 薬学研究科(研究院), 研究員 (10509532)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 数値最適化 / 記号計算 / 反応パラメータ推定 |
研究概要 |
本研究では、記号計算法による微分方程式モデルに基づく合理的制約条件を導入し、時系列方向の評価を加えることで、時系列データを使用した微分方程式内反応パラメータ推定の高精度化を目指す。本年度は、新規高精度反応パラメータ推定法を開発し、シミュレーションデータを用いて、新規開発手法の有効性を検証した。新規反応パラメータ推定法では、時系列であるという測定データの特徴を生かすため、記号計算法であるDifferential Elimination(DE)を導入した。DEは、微分方程式系を、高階微分値を含む等価な方程式系へと変換する。また、DEは任意の分子に関する項を消去できるため、ネットワーク内に測定不可能な分子が存在する場合でも適用できる。一方、扱う微分方程式モデルによっては、制約条件式の評価コストが膨大となる。この問題を克服するために、高階微分値を含む制約条件式を導出するための、より簡便な記号計算法を開発した。これらの制約条件式を標準誤差関数と組み合わせた、新たな評価関数を設計し、遺伝的アルゴリズムや粒子群最適化等の数値最適化手法を用いて反応パラメータの推定を行う。生命現象に特徴的な負のフィードバック制御を含む振動モデル(Tyson, et al, 2003)を用いて、新規開発手法の有効性を検証した。その結果、反応パラメータ推定の精度が飛躍的に向上することが確認できた。本研究で開発した、生命現象の動的なふるまいを考慮した高精度反応パラメータ推定法は、生命現象のシステム論的解析および機能制御の基盤となることが期待される。また、微分方程式モデル内のパラメータ推定は、生物学のみならず、理工学の幅広い分野で利用されることから、多数の研究課題の進展に寄与することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画のうち、本年度に実施予定であった、以下の二項目について実施済みである。1. 新規反応パラメータ推定法の開発Differential Eliminationによって導出された制約条件式を、既存の数値最適化手法(実数値遺伝的アルゴリズムおよび粒子群最適化)の評価関数へと導入することにより、高精度反応パラメータ推定法を開発した。2. 新規開発手法の検証生命現象に特徴的と言われる負のフィードバック制御機構を持つ振動モデル(Tyson, et al, 2003)を用いて、新規開発手法の検証を行った。1. で開発した新規反応パラメータ推定法により、シミュレーションデータに基づいて、元の微分方程式に含まれる反応パラメータを高精度に推定できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
・引き続き、文献情報、およびEBI等の公開されたデータベースから、既知のネットワークモデル・時系列データのセットを取得し、それら実データを使用して、新規開発手法の実用性を検証する。・新規開発手法を計算サーバへ実装し、公開する。このとき、ネットワークモデル・計測データの入力・結果の出力については、表計算ソフト等で汎用的に用いられる形式(CSV形式等)で行えるようにするなど、利用者の利便性に考慮する。・新規開発手法に関する情報を、論文発表や学会発表などで、積極的に公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた状況 本年度タイで発生した大規模な水害の影響により、調達を予定していた計算サーバの発注・納入が遅れ、また外部記憶装置(HDD)の調達にも支障があった。そのため、1. 外部記憶装置の一部の購入を次年度に行う。また、2. 学会での研究成果の公開を次年度に行うため、旅費の一部を次年度に使用する。次年度は、上記二項目に加え、3. 公開用計算サーバ、4. ソフトウェア、5. コンピュータ周辺機器等の調達を行う。さらに、上記 2. に加え、さらなる研究成果発表を行うための旅費を使用する。
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