研究課題/領域番号 |
23700360
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研究機関 | 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 |
研究代表者 |
井澤 淳 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 室長代理 (20582349)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳疾患 / 運動制御 |
研究概要 |
本研究の目的は、これまで未整理であった脳の疾患によって運動失調が表れる計算論的メカニズムを、確率最適制御理論を用いた枠組みによって、統一的に理解することを目的とする。本研究は、主に健常者を対象とした運動学習実験、小脳失調および発達障害患者を対象とした運動学習実験、及び、計算論的モデルによる考察から構成されるこのうち特に今年度は、小脳失調患者の運動学習データの解析とモデル化および発達障害患者の運動学習データの解析及びモデル化を行った。小脳失調患者の運動学習実験ではvisual rotation taskを課題に選んだ。手先運動方向とカーソルの間に外乱として回転を与え、この視覚回転に対する学習の特性を調べた。健常者と小脳疾患患者では、学習の到達度には差が見られなかった。同時に、学習の前後で、手先運動方向の推定タスクを行った。このタスクでは、明示的に到達運動のターゲットを与えなかった。その代り、被験者が自由意思で選択した運動方向に運動を行い、実際に手先がどこに到達したのかを回答させた。この結果、健常被験者は運動学習の結果、自らの手先位置の推定を更新したのに対して、小脳疾患患者は、推定結果を更新しなかった。これらの結果は、運動学習が運動の予測に関する学習と運動指令の生成に関する学習(順モデルと逆モデル)から構成され、小脳疾患患者は前者に選択的に障害を持つことが明らかになった。これは、小脳が順モデルの学習に寄与していることを示唆している。発達障害患者に対する実験では、これまでに取得した自閉症患者のデータに加えて、ADHDを持つ子供の実験データの解析を行った。健常被験者とADHDに比較して自閉症の持つ被検者は外部座標系よりも内部座標系により強く汎化していることが明らかになった。これは、自閉症の持つ内部モデルの表現が特異であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初24年度研究計画として予定していた小脳疾患と発達障害患者の運動学習の特性とその計算論的理解に関する研究が、予定よりも大幅に速く、23年度中に多くの課題を前進させることが出来た。計算論的モデルからアプローチした新しい解析手法が成功し、論文執筆まで非常に速いペースで終了することができた。このため解析手法の構築を優先さえ、23年度に予定していた健常者の運動学習実験のセットアップを24年度の実施に変更することにした。当初と順番が逆転しているが、先に解析手法が確立したため、実験のセットアップも試行錯誤の幅が減り、効率的になる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は当初24年度に予定していた小脳疾患と発達障害患者の運動学習の特性に関する研究が早く進行したが、一方で、健常者の運動学習実験の立ち上げにやや遅れが生じた。そのため、計画した実験機材の購入が次年度へ持越しになった。次年度は、今年度繰越額と次年度請求額を合わせて、実験機材を購入し、実験環境を早急に整える予定である。この実験環境を用いて、健常者の運動学習の特性とこれまで計測した脳疾疾患患者の運動学習の特性を比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
新たに筋電位計測装置一式(センサ、アンプ、計測用PC、計測結果表示及び解析用ソフト)を購入する。
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