研究概要 |
細胞はマイクロメートルスケールのサイズを有している。では、サイズは内部の反応にどのような影響を与えているのだろうか?理論研究から、特定のシグナルカスケードを稼働させるのに、細胞サイズが寄与していること、もしくは、細胞には生育に適したサイズが存在しうることが議論されている。一方で、細胞のサイズ変化のみが内部反応に与える影響を実験により解明する試みはほとんどない。本研究では、oil層にwater層が分散しているw/o emulsionを用い、その内部に完全再構成無細胞翻訳系(PURE system)を封入する。これにより、サイズの異なる反応場に蛋白質合成反応を内包した、既知の成分のみからなる「人工細胞」を再構成し、これを用いて内部反応に反応場サイズが与える影響を調べることを目指している。 23年度はw/o emulsion内蛋白質合成系を確立した。具体的には、レポータ蛋白質であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)とβ-ガラクトシダーゼ(GAL)を用いた合成反応の検出系を構築した。さらに、それらの反応がDNA濃度が高いところでは、emulsionの液的のサイズに依存しない条件を見いだした。これにより、サイズの異なるemulsion内でのGUS, GAL合成反応のリアルタイム検出が可能となった。 本研究では、PURE systemを用いたGUS, GAL合成反応の反応場サイズ依存性を実験と理論から明らかにする。その準備段階として、bulkでのPURE systemを用いたGUS, GAL合成反応の速度論解析を行い、その結果を論文に発表した。また、emulsion以外の小さい反応場であるマイクロチャンバー内でのGUS, GAL合成反応検出技術も開発し、これについても、その結果を論文に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
23年度はw/o emulsion内蛋白質合成系を確立した。具体的には、界面活性剤(tween80, span80, AbilEM90)の濃度比を変化させてemulsionを調製し、サイズが異なるemulsion内でも同じようにPURE systemを用いたタンパク質合成反応が進行する条件を見いだした。レポータ蛋白質として、ホモ4量体であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)とβ-ガラクトシダーゼ(GAL)を用いた合成反応の検出系も構築した。具体的には、それぞれの酵素の蛍光基質をPURE systemに加えることでGUS, GALの4量体が合成されると、蛍光基質が加水分解され、蛍光シグナルが生成する。これにより、サイズの異なるemulsion内でのGUS, GAL合成反応のリアルタイム検出が可能となった。また、bulkでのPURE systemを用いたGUS, GAL合成反応の速度論解析を行い、その結果を論文に発表した(Matsuura et al., JBC, 2011)。w/o emulsion以外の細胞サイズの反応場、具体的には石英ガラスを用いたマイクロチャンバーを用いた蛋白質合成反応の検出系も構築し、これについても論文を発表した(Okano, Matsuura et al., Lab Chip, 2012)。
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今後の研究の推進方策 |
サイズの異なる区画にサイズの異なる微小反応場におけるGUSとGAL合成反応のダイナミクス解析を行う。具体的には、異なるサイズの反応場におけるGUSとGAL合成反応ダイナミクスを顕微鏡下でリアルタイム測定する。GUS合成反応は蛍光基質の加水分解、すなわち蛍光強度の増加で検出する。平成23年度に発表した論文(Matsuura et al., JBC, 2011)から、各emulsionに1分子のDNAを封入する程度のDNA濃度では、内部のGUS, GAL合成反応はemulsionサイズに対して異なる振る舞いをすることが予想される。すなわち、GUS合成反応は4量体形成が反応律速になっているため、反応場サイズが小さいほど4量体の会合反応が加速され、蛍光強度が早く立ち上がってくる。一方で、GALではそのようなサイズ依存性は見られないと予想される。GUS、GAL合成反応の速度論モデル(理論)と実験結果の整合性を調べる。モデルと合致しない場合には、これ以外の効果(界面と内部反応の適合性、表面積・体積比など)も考慮し、反応場サイズと内部反応ダイナミクスの関係性を定量的に明らかにする。
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