研究課題/領域番号 |
23700367
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野村 洋 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (10549603)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 記憶 / 恐怖条件づけ / 前頭前皮質 / 扁桃体 |
研究概要 |
1.不安障害は症状が改善してもすぐに悪化する例が多いため、寛解率が低く、寛解後の再発率が高い。しかし、一度消失された恐怖が再び表出する機構を解明できれば、将来の創薬や治療に貢献できる。そこで本研究では、恐怖の消失および消失した恐怖の復元を司る神経機構を解析した。NMDA受容体阻害薬MK801およびタンパク合成阻害薬anisomycinの腹腔内投与によって恐怖の復元は阻害された。anisomycinによる復元の阻害は、復元を誘発の2時間後は認められなかったが、24時間後には認められた。恐怖の復元にNMDA受容体が関与すること、復元の固定化にタンパク合成が関与することが考えられる。さらに、最初期遺伝子c-Fosを用いた神経活動マッピングを用いて、恐怖の消失時に下辺縁皮質および扁桃体介在ニューロンが活性化すること、恐怖の復元時にこれらの活性化が低下することを明らかにした。anisomycinの前頭前皮質への投与により、恐怖の復元は阻害された。下辺縁皮質を含めた内側前頭前皮質における神経可塑性が恐怖の復元に関与すると考えられる。2.扁桃体外側核は恐怖の発現にも消失にも関与する。これまでに、恐怖発現の有無に対応して、扁桃体外側核内の異なるニューロン集団が活性化することを明らかにしている。本研究ではさらに、恐怖条件づけ時、恐怖を発現する時、および発現しない時の神経活動を同一マウスの扁桃体外側核からイメージングした。その結果、恐怖を発現する時としない時では90%以上異なるニューロン集団が活性化していた。恐怖を発現する時に活性化したニューロンの多くは、恐怖条件づけ時に活性化したニューロンであった。以上の結果は、扁桃体が異なるニューロン集団を介して正負の情動を制御していること、恐怖発現を司るニューロン集団が恐怖条件づけによって形成されることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では恐怖発現の有無に対応した神経ネットワークを可視化し、その動態について詳細に記述することに成功した。さらに、恐怖発現や消失に留まらず、消失した恐怖の復元に関わる神経回路の特定にも成功した。この成果は当初の予定を大きく超えるものである。一方、分子、細胞メカニズムの検討は現在進行中である。今後重点的に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
1.恐怖の復元を司る分子、細胞メカニズムを明らかにする。下辺縁皮質における神経可塑性が恐怖の復元に関与すると考えられるため、恐怖の復元に伴う下辺縁皮質ニューロンの興奮性およびシナプス伝達の変化を解析する。さらに合わせて生化学的な解析を行い、分子メカニズムの解析を行う。2.異なる扁桃体ニューロン集団が正反対の行動を出力する神経回路メカニズムを明らかにする。異なる行動を出力する原因は、おそらく投射先の脳領域が異なるからではないかと考えている。薬理学的な手法と神経活動マッピング法を組み合わせて検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は主に、実験動物、生化学実験の試薬、HSVベクター作製の試薬などに用いる。旅費は主に、研究成果の発表のための学会参加に用いる。
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