研究課題/領域番号 |
23700378
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 麻友美 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), COE特任助教 (30551965)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / 神経発生 / 非対称分裂 / マイクロアレイ |
研究概要 |
発生過程の大脳において、神経幹細胞が対称分裂と非対称分裂を行うことは、多数の細胞からなる脳組織を作り出すために重要なステップである。しかし、これらの分裂パターンを制御しているメカニズムは、まだ十分明らかになっていない。本研究計画では、単一細胞レベルでのマイクロアレイ解析のデータを利用して、神経幹細胞の分裂パターンの制御に関わる遺伝子を同定し、その分子メカニズムを明らかにすることを目標としている。 今年度はノックダウン実験を用いたスクリーニング解析の結果、大脳皮質の組織形成が大きく乱れるフェノタイプを示す分子を発見した。神経幹細胞はapical(脳室)とbasal (脳膜)に突起を伸ばした長い形態をしている。この神経幹細胞の形態がどのように形成・維持されていて、このような形態を持つことにどのような意義があるのかはよくわかっていない。この分子を胎生10日目において子宮内エレクトロポレーション法を用いてノックダウンすると、胎生12日目において、神経幹細胞のbasal側の突起が消失し、その形態が短くなった。それらの異常な神経幹細胞は、正常と同様にapical面において分裂を行うが、それらの細胞では未分化性が維持されていた。さらに、本来apicalからbasalにかけて行われている核移動(interkinetic nuclear migration)の範囲が狭くなり、脳室面付近に細胞の核が混み合ったことから、多くの細胞が未分化状態のままapical面から離脱し、大脳壁のbasal 側で異所的に分裂した。やがてこれらの細胞はステージ依存的にニューロンを産生したが、このような異所的な細胞産生域が生じたことから、大脳皮質の組織形成は大きく乱れた。以上の結果は、神経幹細胞の形態と分裂様式の関係性や正しい分裂様式が保持されることの重要性について考察するための重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、マイクロアレイのデータを利用してノックダウン実験を用いたスクリーニング解析を行った結果、神経幹細胞の分裂様式に影響を及ぼす分子を発見した。さらに、この分子は、神経幹細胞の形態や挙動にも関連していることが予想され、神経幹細胞の分裂様式の制御機構を考える上で、重要な知見となった。
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今後の研究の推進方策 |
スクリーニング実験から得られた因子について、子宮内エレクトロポレーション法を用いた過剰発現実験、機能抑制実験に加え、胎児脳のスライス培養内でのライブイメージングを用いることにより、神経幹細胞の分裂パターンや細胞の挙動を観察する。また、Wnt, Notch, FGFs シグナルなどとの関係や他の関連因子との関係性を明らかにする。これらの解析から、様々な分子間の制御機構を明らかにすることにより、神経幹細胞の多様な分裂パターンを生み出すメカニズムを包括的に理解する。
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次年度の研究費の使用計画 |
子宮内エレクトロポレーション法を用いた過剰発現実験、機能抑制実験、また、胎児脳のスライス培養内でのライブイメージングを行うために、実験動物が多く必要となる。またそれらの解析を行うために、試薬、プラスティック器機、siRNA等を購入する予定である。
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