本研究では、大脳発生の進行に伴って変化する分裂パターンや挙動等の神経幹細胞の特性を制御しているメカニズムを明らかにすることを目的として行った、単一細胞由来のマイクロアレイデータより得られた候補分子のスクリーニングより、発生初期において神経幹細胞の形態を制御していることが考えられる接着分子、TAG-1を発見した。 TAG-1をターゲットとしたshRNA発現ベクターをエレクトロポレーション方によって大脳に導入することによりTAG-1のノックダウンを行うと、共導入したGFP陽性の神経幹細胞の局在が、apical面付近に限局し、そのbasal突起が失われていた。このようなbasal突起の消失は、発生初期(E10~E11)においては誘導できたが、発生中期(E12)以降になると起こらなかったことから、TAG-1は発生時期特異的に神経前駆細胞の形態を制御している可能性が考えられた。 また、TAG-1のノックダウンによりbasal突起を失った神経幹細胞は、スライスカルチャーを用いたライブイメージング観察より、その核移動の範囲が狭くなり、apical面付近に限局していることが明らかになった。そして、その領域で細胞密度が増加したことにより、これらの異常な細胞は、やがて集団となって脳室面から離脱し、本来神経幹細胞の存在しないbasal側において細胞産生を行った。その結果、大脳層構造は大きく乱れた。 以上の結果より、神経幹細胞の形態は発生時期特異的にTAG-1に制御されており、その形態依存的な核移動は、細胞が異常に混雑することを防ぎ、正常な大脳組織形成を行うために、非常に重要であることを見出した。 これらの成果は、神経幹細胞の形態と分裂様式の関係性や大脳組織形成における神経幹細胞の挙動の重要性について考察するための非常に重要な知見であり、現在論文を投稿中である。
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