研究課題/領域番号 |
23700379
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山内 健太 大阪大学, 生命機能研究科, 特任研究員 (00513079)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 軸索誘導 / 交連軸索 / ネトリン1 / 化学走性説 |
研究概要 |
本研究の目的はネトリン1の化学走性説の再検証を行い、交連軸索の腹側伸長を規定する真のネトリン1の機能を解明することである。平成23年度は(1)交連軸索伸長時におけるネトリン1の発現分布の解析、(2)交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1の発現分布を解明する研究に使用する研究試料の作製を目標に研究を行い、交連軸索の腹側伸長時におけるネトリン1 mRNAの発現分布を明らかにし、交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1の発現分布を解明する実験系を構築した。具体的な成果を以下に記す。1)交連軸索伸長時においてネトリン1mRNAは交連軸索の中間標的である底板に加え、脳室帯に幅広く発現していた。この結果は中間標的以外に発現するネトリン1の交連軸索の腹側伸長への寄与の可能性を示唆するものである。2)ネトリン1コンデイショナルノックアウトマウス(Netrin-1 cKOマウス)と底板特異的にCreリコンビナーゼを発現する遺伝子改変マウス(shh-cre, foxa2-creマウス)、底板以外の領域でcreを発現するマウス (nestin-creマウス)との交配を行うことで、交連軸索の腹側伸長に底板に発現するネトリン1が必要か、それとも底板以外の領域に発現するネトリン1が必要であるのかを解析できる実験系を確立した。3)ネトリン1ノックアウトマウス(Netrin-1 KOマウス)表現型回復実験による交連軸索の腹側伸長に十分なネトリン1の発現分布を明らかにするため、Netrin-1 KOマウスにFlpリコンビナーゼを強制発現させる実験系を考案した。その後神経管の特定領域でFlpリコンビナーゼを発現するベクターを作製し、交連軸索の腹側伸長に十分なネトリン1の発現分布の解析を可能とする実験系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に計画した2つの研究の内、交連軸索伸長時におけるネトリン1の発現分布の解析の一部を完成させ、交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1mRNAの発現分布を解明する研究に使用する研究試料の準備をほぼ完了することができた。よって現時点までにおおむね良好に研究が進展していると判断している。課題としては神経管においてネトリン1タンパクの発現分布を解析する実験系の確立に成功していない点が挙げられる。ネトリン1タンパクの発現分布を解析する実験系として抗ネトリン1抗体を用いた免疫組織化学を想定し、共同研究により作製した抗ネトリン1抗体、市販の抗ネトリン1抗体による免疫染色を幾度となく行ったが、いずれの抗体においても特異的な免疫反応の検出に成功していない。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度までに交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1の発現分布の解明に使用する研究試料の作製が終了した。一方で神経管におけるネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系の確立が課題として残った。以上の状況を踏まえて平成24年度はネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系の確立を第一課題として取り組む。具体的には親和性、特異性の高い抗体を得ることが可能な抗ネトリン1ウサギモノクローナル抗体を作製する。またネトリン1の受容体であるDCCのネトリン1結合領域を用いたin situ結合アッセイの試料を作製することで特異性の高い抗ネトリン1抗体を得られなかった場合に備える。ネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系の確立と並行して(1)Netrin-1 cKOマウスと神経管の特定領域でCreリコンビナーゼを発現するマウスとの交配により得た神経管の特定領域においてネトリン1mRNAの発現を欠損させた個体における交連軸索の挙動の解析、(2)Netrin-1 KOマウスに神経管の特定領域でFlpリコンビナーゼを発現するベクターを強制発現させた個体における交連軸索の挙動の解析する表現型回復実験を行うことで、交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1mRNAの発現分布を明らかにする。ネトリン1タンパクの発現分布の解析が可能になり次第、交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1タンパクの発現分布を明らかにし、これらが化学走性説に合致するかを検証し、合致しない場合は化学走性説に替わる交連軸索の腹側伸長を規定する真のネトリン1の機能を提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた理由として平成23年度に計画していたネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系の確立が順調に進展しなかったことが挙げられる。平成24年度にこの課題に集中して取り組むため、ネトリン1タンパクの発現分布の解析のための研究試料の購入に予定していた物品費を次年度へと繰り越した。またネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系が確立できなかった結果、当初に成果発表として予定していた国内学会への参加をとりやめたため、学会参加のための旅費として予定していた研究費を次年度の物品費に使用するようにした。以上の状況を踏まえて平成24年度はネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系構築並び交連軸索の腹側伸長に必要十分なネトリン1の発現分布を解明の実験に要する研究試薬の購入、国内学会での成果発表のための旅費として研究費を使用することを計画している。その具体的な内容を以下に記す。1)ネトリン1タンパクの発現分布の解析を可能にする実験系の構築のための抗ネトリン1ウサギモノクローナル抗体の作製、またネトリン1の受容体であるDCCのネトリン1結合領域を用いたin situ結合アッセイに必要な研究試料の購入。2)交連軸索の腹側投射に十分なネトリン1の発現分布を明らかにするためのネトリン1表現型回復実験に用いるマウス胚全胚培養の培養培地、また電気穿孔法により導入する発現ベクターの調製に使用するプラスミド精製キットの購入。3)これまで得られた成果を発表し、最新の研究情報を収集するために参加する第35回日本神経科学大会の参加費並びに旅費。なお翌年度以降に請求する研究費は存在しない。
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