研究課題/領域番号 |
23700393
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
鳴島 円 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (30596177)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | シナプス除去 / 発達 / 視床 / 大脳皮質 / 体性感覚系 / mGluR1 |
研究概要 |
23年度は、大脳皮質の神経活動の抑制および視床のmGluR1の阻害が、内側毛帯線維―VPmのシナプス刈り込みにどのような影響を与えるかを解析するため、薬理学的手法によるmGluR1の阻害法の開発および大脳皮質の神経活動の阻害を行った。 申請者のmGluR1ノックアウト(KO)マウスを用いた実験より、視覚系・網膜―外側膝状体(dLGN)シナプスにおいては、発達期シナプス除去が一度完了したのちに発達の後期(生後28日以降)で再多重化が見られたことから、mGluR1が正常なシナプス結合パタンの維持に寄与していることが示唆された(Narushima et al., in preparation)。そこで、まず浸透圧ポンプを用いた薬物投与の実験系確立を目指し、生後21日齢から1週間~10日間、mGluR1の選択的阻害薬であるCPCCOEtを外側膝状体に投与する実験を行った。脳スライス標本を作成して視神経刺激により誘発されるEPSCを記録すると、mGluR1-KOマウスと同様、発達後期における再多重化が観察された。このことから、mGluR1の薬理学的な阻害が有効な方法であることが確認できた。 次に薬理学的に大脳皮質の神経活動を阻害する実験を行った。GABA受容体の賦活薬であるムシモールを含むEVA樹脂をシート状に成形し、生後21日齢から大脳皮質体性感覚野周辺の脳表面に添付した。一週間のムシモール投与後、脳スライス標本を作成し、内側毛帯―VPmシナプス応答を電気生理学的に記録した。その結果、正常ではただ1本の内側毛帯線維の支配をうけるVPmニューロンに、複数の内側毛帯線維が投射している傾向が観察された。この発見は、大脳皮質の神経活動が末梢―視床シナプスの結合を調節しうるという、新規の可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験計画では、大脳皮質-視床シナプス発達過程の解析から開始する予定であったが、23年度に行った実験により、大脳皮質-視床シナプスがすでに成熟している生後21日齢以降で、大脳皮質の神経活動およびmGluR1の活性が、内側毛帯―視床シナプスの正常な結合パタンの維持機構に関与している可能性が示唆された。そのため、記録時期は生後28日齢以降に固定し、生後21日齢前後から1週間~10日間の神経活動やmGluR1等の分子の活性阻害が、発達後期における内側毛帯―VPmシナプスの結合パタン維持に与える影響を解析する方向に実験計画を変更した。23年度の研究で得られた大脳皮質の神経活動が末梢―視床シナプスの結合パタンを調節するという現象はまったく新規の知見である。 一方で、大脳皮質の神経活動を薬理学的に操作するEVA樹脂を用いた手法は、脳表面に対して物理的な侵襲があり、対照群においても非手術群とは異なる結果が得られる傾向にあった。そのため、今後の詳細な解析に値する現象は発見できたと考えられるものの、解析手法が開発途上であり、達成度は「おおむね順調」であるとした。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究成果より、大脳皮質の神経活動が内側毛帯―視床VPmシナプスの結合パタンに影響を与える可能性が示唆されたため、当初の研究計画で実施予定であったmGluR1のsiRNAおよびKirの発現による大脳皮質の神経活動の阻害を行う。ただし、大脳皮質のわずかな侵襲も影響を与えてしまう可能性があるため、例えば注入ピペットを十分な角度をつけて刺入する等、体性感覚野のニューロン群を侵襲しないように実験手技に注意する必要がある。一方で、上記のような手法は脳へガラス管を刺入し、プラスミド等を直接投与することが必要となるため、大脳皮質の損傷により神経活動が影響を受け、対照群でもなんらかの影響が出る可能性を排除できない。そこで、上記の実験と平行して、より侵襲の低い方法として、オプトジェネティクスを用いた光刺激による大脳皮質神経活動の阻害法を新規に導入する。Cre-loxPシステムを用いて、大脳皮質6層ニューロン特異的に光感受性プロトンポンプを発現させることが可能であり、頭蓋骨に光ファイバーを取り付けることで、脳を損傷することなく光感受性プロトンポンプを活性化することができる。本年度の予算の一部はこれらのマウスの購入と光刺激システムの構築に充てる。
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次年度の研究費の使用計画 |
大脳皮質の神経活動を阻害する目的で、米国Mutant Mouse Regional Resource Centerより大脳皮質6層特異的cre発現マウス(Ntsrプロモーター;GN220)および米国ジャクソン研究所よりArch-GFP-floxマウス(Ai35)を購入する。また、光刺激システム構築のための部品を購入する。視床VPmニューロンの大脳皮質由来シナプス後部に豊富に存在するmGluR1の機能を解析するため、生理学研究所重本教授より、L7-mGluR1b rescueマウスの譲渡を予定しており、その輸送費を供出する。これまでの研究成果(mGluR1阻害薬CPCCOEtの脳内投与法について)の学会発表を行うための旅費を申請する。
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