私たちの脳はレム(急速眼球運動)睡眠中に夢という、独自の意識世界を創り出している。このように睡眠中に脳が活性化する状態は、一部の脊椎動物でのみ知られる。しかしながら、なぜこのような生理状態が生まれたのか、その進化的起源や生理的意義は依然として不明である。こうした謎を解く上で、レム睡眠中枢がどのような細胞系譜に由来し、どのような分子特性をもつかを解明することが非常に有用であると期待される。そこで本研究では、これまで謎の多かったレム睡眠の中枢部位を遺伝学的手法により決定するとともに、レム睡眠中枢に選択的な遺伝子群を同定することで、レム睡眠中枢の形成過程の理解を目指す。 本年度までに、特定の細胞系譜に由来する興奮性ニューロンまたは抑制性ニューロンのみを特異的に興奮させる方法を、Cre-loxPシステムとテトラサイクリン誘導系やアデノ随伴ウイルス系を組み合わせることで確立し、これにより、レム睡眠の制御を担うニューロンを遺伝学的に同定することに成功した。また、本研究成果から、レム睡眠中枢の発生学的起源も明らかとなった。さらには、マイクロアレイ法でこれらのニューロンに選択的に発現する遺伝子を同定することに成功した。同定された遺伝子には、転写因子をコードするものや、シナプス形成に関わる因子、ニューロペプチドなどをコードするものが含まれ、レム睡眠中枢の形成過程および作用機構の理解に大きく貢献できるものと期待される。
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