研究概要 |
夢を生じるレム(急速眼球運動)睡眠は、一部の脊椎動物に固有の生理状態であり、脳の高次機能に関わることが期待される。我々はこれまでに、レム睡眠の発生に関わるニューロン群を脳幹において同定した。これらのニューロンは、呼吸・食事・排泄など、睡眠以外の生命維持に必須な機能を担うニューロンと混在していた。そこで、より詳細に機能ごとに脳幹のニューロンを分類し、各ニューロンの個性を生み出す遺伝子を同定する試みとして、各サブタイプ選択的な遺伝子を網羅的に探索した。方法としては、脳幹をいくつかの区画に分け、mRNAを抽出しcDNAマイクロアレイ法で各部位に選択的な遺伝子を検索した。特に発現の特異性が高い候補遺伝子については、Creノックインマウスを構築し、一部のもので選択性の高い組換え遺伝子の発現を得ることに成功した。 新規な遺伝子の検索と並行して、脊椎動物固有のシナプスタンパク質であるnetrin-G1の機能解析も行った。netrin-G1は軸索誘導因子netrinと異なり分泌されずに細胞膜に固定される(Nakashibaら、J Neurosci, 2000)。その遺伝子Ntng1はヒトにおいて自閉症や統合失調症との関連が指摘されている(Sandersら, Nature, 2012; Aoki-Suzukiら, Biol Psychiatry, 2005)。これらの発達障害や精神疾患の患者では、しばしば睡眠の異常が見られることから、netrin-G1の睡眠制御への関与を検討した。その結果、Ntng1 KOマウスはレム睡眠の低下を示した。Ntng1 KOマウスは様々な行動異常も示すが、レム睡眠の異常がこうした表現型の少なくとも一部に寄与している可能性がある。脳幹においてNtng1 は、レム/ノンレム睡眠の制御に重要な部位に発現していた。脊椎動物固有因子であるnetrin-G1がレム/ノンレム睡眠などの脊椎動物固有脳機能の獲得・回路形成に貢献したと期待される。
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