Autism susceptibility candidate 2 (Auts2) 遺伝子は自閉症を示す多数の患者で、染色体構造異常の認められる遺伝子座にあることが報告されており精神疾患との関連が強く示唆されているが、その生理機能については全くわかっていない。本研究では、培養細胞実験によってAUTS2がRhoファミリーG蛋白質Rac1を活性化し、細胞運動時に見られるアクチン集積構造体「ラメリポディア膜」形成を促進することを見出した。さらに、プロテオミクス解析によるAUTS2の結合分子探索によって、AUTS2がRac1活性化因子であるP-Rex1やDOCK180/ELMO2と結合しRac1を活性化していることがわかった。一方で、もう一つのRhoファミリーG蛋白質Cdc42の活性に対しては抑制的に働き、フィロポディア形成を抑制することがわかった。また、大脳皮質初代培養神経細胞や子宮内エレクトロポレーションによる胎児脳のノックダウン実験から、神経突起伸長や神経細胞移動が著しく阻害されることを見出した。また、Auts2遺伝子のノックアウトマウス(Auts2 KO)でも同様に、神経細胞移動や神経突起伸長の障害が認められた。さらに、3-chamber装置を用いた社会的行動測定テストでは、Auts2 KOマウスが野生型マウスと比べて、自閉症様行動を示す傾向にあることが分かった。このように、AUTS2はRac1およびCdc42の活性を制御しアクチン細胞骨格系を再構成させることによって、神経細胞移動や神経突起伸長など神経系発生に重要な役割を果たしているということがわかった。後期の結果から推測するに、Auts2遺伝子の機能異常によって神経細胞移動や神経突起伸長など神経系形成過程が阻害され、結果として正常な脳機能を発揮できずに精神疾患様症状を呈することに繋るのではないかということが示唆される。
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