研究課題/領域番号 |
23700408
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
木村 有希子 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 特別協力研究員 (70581122)
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キーワード | 神経科学 |
研究概要 |
脊髄運動系神経回路の機能メカニズムの解明のために、従来、特定の種類の脊髄神経細胞群の個々のニューロンの性質が調べられ、運動系回路における役割を推定されてきた。しかし、直接その役割を検証することはできていなかった。そこで、本研究ではゼブラフィッシュに光遺伝学を用いて、特定の種類の神経細胞の集団としての活動を直接制御することで、予想されるロコモーションの制御が実際に起こることを直接的に示し、脊髄運動系神経回路の機能メカニズムを明らかにすることを目的としている。 今年度は転写因子Chx10陽性ニューロン特異的に、光遺伝学ツールを発現させたトランスジェニック魚を解析した。脊髄Chx10ニューロンは脊髄遊泳リズム生成回路の主要な要素であるとの仮説を証明する実験を行った。Chx10ニューロンに光活性型カチオンチャネルを発現させ、脊髄に光照射して強制的に活動させると、一定の割合で遊泳行動が起こったが、予想していたほどの強い遊泳誘起は観察されなかった。これは、光遺伝学ツールを大量に発現させるために用いたGal4-UASシステムではChx10の脊髄後端での非特異的発現が増幅されるため、解析可能な領域が脊髄前方の小さな領域に限られてしまったためと考えられる。現時点では技術的な問題から脊髄Chx10ニューロンの解析は難しいことが分かった。 一方で、後脳のChx10ニューロンを光遺伝学的手法により強制的に興奮させると遊泳行動が誘起され、抑制すると停止することが新たに分かった。遊泳を誘起する後脳ニューロンがChx10で特定できることを初めて直接示す結果であり、運動系神経回路の解明に役立つ重要な結果である。また、後脳Chx10ニューロンの解析により、光遺伝学的手法により特定ニューロン集団の機能的回路における働きを解析する手段をゼブラフィッシュで確立するという本課題の目的の一つも達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脊髄Chx10ニューロンの光遺伝学的解析は、期待通りの結果が得られなかった。しかし、後脳Chx10ニューロンの解析を行うことで、光遺伝学的手法により特定ニューロン集団の機能的回路における働きを解析する手段をゼブラフィッシュで確立するという目的は達成することができた。 一方、今年度行う予定であったSim1ニューロンの解析に関しては、解析を進める前に遺伝子組み換え魚の健康状態が悪化し、解析を進めることができなかった。このため、研究目的の達成はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
脊髄Sim1ニューロンの解析 (i)、脊髄Sim1ニューロン集団のロコモーションにおける役割の解析。Sim1を発現する脊髄の興奮性介在ニューロンは自発的な遊泳行動の維持に働くと推測している。この仮説を検証するために Chx10ニューロンと同様な解析を行う。光遺伝学のツールをSim1ニューロンに発現させたトランスジェニック魚を用いて、脊髄に任意の光照射を行い、脊髄Sim1ニューロン集団の活動を制御する。その結果生じる行動変化を観察する。(ii) ChR2を用いたSim1ニューロンシナプス結合様式の解析。Sim1ニューロンのシナプス結合ターゲットは未解明な為、光遺伝学と電気生理学的な解析を組合せて調べる。シナプス前細胞にChR2 を発現させることにより、電極を使用せずに、光刺激によってシナプス前細胞にスパイクを誘発する。この方法により、シナプス後細胞のみの電気生理学的記録によって、2神経 細胞間におけるシナプス結合様式を迅速かつ容易に解析することが可能となる。この解析をSim1ニューロンで行い、Sim1ニューロンの結合ターゲットを網羅的に明らかにする。(i)(ii)を合わせて脊髄Sim1ニューロンのロコモーションにおける役割がどのような神経回 路によって果たされるかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度前半期に、実験に使用するゼブラフィッシュの健康状態が悪化し、それに対応する必要があった。そのため、予定していた遺伝子改変魚の解析を進めることに遅延が生じた。以上の状況から、補助事業期間を延長し、次年度に研究費を残している。遺伝子組み換え魚は作成し直したので、次年度の解析に支障はない。上述の研究を遂行する。
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