これまで研究代表者は、脊髄運動系神経回路の機能解明を目的に、特定種類の脊髄神経細胞群の個々のニューロンの性質をゼブラフィッシュを用いて調べてきた。その結果から、特定神経細胞群の運動における役割を推定したが、直接の検証はできなかった。しかし、新技術の光遺伝学を用いれば、特定種類の神経細胞集団の活動を直接制御することが可能になり、予想される運動が実際に起こるか直接的に示せると期待された。そこで、ゼブラフィッシュに光遺伝学を用いる手法を確立し、ロコモーション時に、特定種類の脊髄神経細胞が集団で果たす役割を光遺伝学で明らかにし、脊髄運動系神経回路の機能メカニズムを解明することを本研究の目的とした。 まず、特定の種類の神経細胞に光遺伝学ツールを発現させる遺伝子組み換え魚を作製した。神経細胞の光遺伝学的制御には光遺伝学ツールの大量発現が必要で、予定外の困難があったが、Gal4-UASシステムを用いて解決した。 次に、ロコモーションへの関与が予想された脊髄ニューロンの中で、転写因子Chx10及びSim1陽性ニューロンの光遺伝学的解析を試みた。しかし、Chx10ニューロンに関しては、Gal4-UASシステムの性質上、バックグラウンドの発現も増幅されるため、脊髄のChx10ニューロンで光遺伝学ツールの特異的な発現を得られず、解析を断念した。代わりに、後脳Chx10ニューロンの光遺伝学的解析を行い、論文を発表した。Sim1ニューロンに関しては、光遺伝学的解析を行ったが、現在のところ運動系回路に関わる表現型を得られず、運動系回路の主要な構成要素ではない可能性が高い。現在の解析系で観察できない表現型かもしれず、さらに解析が必要である。 脊髄運動系神経回路の光遺伝学的解析という目的は達せなかったが、ゼブラフィッシュで特定の神経細胞の活動を光遺伝学的に操作する系を確立できたことは大きな成果である。
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