多様な脳高次機能を担う大脳皮質‐大脳基底核神経回路には、並列回路的に情報処理を行うトポグラフィックな神経回路の存在が示唆されている。個々の脳機能の発現には、神経回路特異的なシナプス発達の精緻化が必要であるが、分子・細胞レベルでの大脳皮質‐大脳基底核神経回路の制御機構はこれまで明らかとなっていなかった。本研究では、δ2プロトカドヘリンファミリーに属するprotocadherin 17(PCDH17)を中心に解析し、以下の点について明らかにした。 (1)PCDH17は大脳皮質‐大脳基底核回路に沿って領域特異的な発現パターンを示し、このパターンは同ファミリーのPCDH10と相補的な発現パターンを示した。また、PCDH17はこの回路内の興奮性及び抑制性シナプスのシナプス周辺部位に局在することを見出した。 (2)PCDH17欠損マウスでは、領域特異的な大脳皮質‐大脳基底核神経回路においてプレシナプス小胞の集積の増加とシナプス伝達効率の亢進が観察され、PCDH17がプレシナプス構築の調節に関与することが明らかとなった。 (3)PCDH17欠損マウスでは、大脳皮質‐大脳基底核神経回路が関与していると考えられている抑鬱様行動になりにくいという表現型を示した。 これらの知見から、PCDH17が特異的な大脳皮質‐大脳基底核神経回路のシナプス発達に関与しており、抑鬱行動とこの回路におけるPCDH17の役割の重要性を示唆した。
|