研究課題/領域番号 |
23700420
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
刀川 夏詩子 独立行政法人理化学研究所, 黒田研究ユニット, 研究員 (70424182)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 父性行動 / 養育行動 / 鋤鼻器 |
研究概要 |
交尾未経験雄マウスは仔に接すると直ちに攻撃するが、父になると養育するようになる。仔からの知覚刺激は同じなのに雄がどのようにして行動を変化させているかという脳内メカニズムについてはほとんど研究が行われていなかった。これまでの当研究において、神経活動依存的に発現することが知られている最初期遺伝子、c-Fosの発現解析から、仔を提示した際、交尾未経験雄では鋤鼻神経回路(副嗅球、扁桃体後内側核、分界条床核)が強く活性化され、父ではこの経路が副嗅球の段階ですでに抑制されていることが示唆された。しかしフェロモンの受容器官ある鋤鼻器については不明であった。そこで我々はまず、1)仔を提示した際の鋤鼻器の活性化をc-Fosを用いて検討した。その結果、交尾未経験雄ではある特定の鋤鼻神経細胞が活性化されていたのに対し、父ではその活性化はほとんど見られなかった。つまり父では、鋤鼻器の段階ですでに仔のフェロモン情報の伝達が抑制されていることが示唆された。しかし、この鋤鼻器を介した仔のフェロモン情報が仔への攻撃行動を直接誘発するのかについては不明であった。そこで次に、2)鋤鼻器を外科的に切除し、鋤鼻器からのシグナルを遮断する事により、仔への攻撃行動が抑制されるかを検討した。その結果、鋤鼻器切除を行った交尾未経験雄では仔への攻撃行動は完全に抑制され、同時に養育行動の開始が観察された。一方、父では鋤鼻器切除は養育行動に影響を与えなかった。以上の結果から、交尾未経験雄マウスにおいて、仔からのフェロモン情報は鋤鼻器を介して鋤鼻神経回路を活性化し、仔への攻撃行動を誘発している事、さらに鋤鼻器切除による仔のフェロモン伝達の遮断が、父性行動の発現に十分であることが示唆された。つまり、雄マウスにおける仔に対する攻撃から養育への行動変化には、仔のフェロモンに対する鋤鼻神経細胞の活性化の抑制が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の実験計画である鋤鼻器の切除実験が終了し、交尾未経験雄において鋤鼻器を介した仔のフェロモン情報が攻撃行動を誘発していること、さらに鋤鼻器切除による仔のフェロモン伝達の遮断が、父性発現に十分であることを示した。さらに、24年度の実験計画である、V1r欠損マウスにおける交尾未経験雄マウスの攻撃行動の変化の有無について既に検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究結果から、交尾未経験雄において仔のフェロモンはある特定の鋤鼻神経細胞を活性化することがわかった。また、交尾未経験の雄マウスに仔を提示し、攻撃行動を示した際に、副嗅球の吻側部でc-Fosの強い発現が見られた。つまり、仔への攻撃を誘発するフェロモンは、副嗅球の吻側部に投射するV1rを介して受容されている事が予想された。そこで、本年度は、V1r欠損マウスにおける交尾未経験雄マウスの仔に対する攻撃行動の検討を行う。もしこのマウスで仔に対する攻撃行動が抑制されていれば、将来的には鋤鼻器においてc-Fosの免疫染色と、このマウスで欠損している16個のV1rフェロモンレセプターのin situ ハイブリダイゼーションとの共染色により、仔への攻撃行動を誘発するフェロモンのレセプターの同定を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度は、北米神経科学学会への参加を見合わせたため、189,839円が未使用額として残った。H24年度は、6月にスウェーデンで開催されるISOT(the international symposium on olfaction and taste)に参加予定であり、H23年度未使用の189,839円はその学会参加の旅費に使用する予定である。また、H24年度の研究費は主に、マウス行動実験、免疫組織学用試薬、国内学会参加の費用に使用する予定である。
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