研究概要 |
交尾未経験雄マウスは仔に接すると直ちに攻撃するが、父になると養育するようになる。仔からの知覚刺激は同じなのに雄がどのようにして行動を変化させているかという脳内メカニズムについてはほとんど研究が行われていなかった。これまでの当研究において、神経活動依存的に発現することが知られている最初期遺伝子、c-Fosの発現解析から、仔を提示した際、交尾未経験の雄マウスでは、一部の鋤鼻感覚ニューロンを起点とする特定の鋤鼻神経回路(副嗅球、扁桃体内側核、分界条床核)が活性化され、最終的に、攻撃行動に関与する視床下部の領域(視床下部前野、視床下部腹内側核腹外側部)が活性化されているのに対し、父マウスでは、フェロモンを感知する鋤鼻感覚ニューロンにおいて既にその活性化は見られないことがわかった。さらに、交尾未経験の雄マウスの鋤鼻器を外科的に切除して、仔のフェロモン情報を感知できないようにすると、仔への攻撃行動が抑制されるとともに、父性行動の発現が観察されたことから、雄マウスにおける、仔に対する攻撃から養育への行動変化には、仔のフェロモンに対する鋤鼻神経細胞の活性化の抑制が重要であることが示唆された。平成24年度は、以上の研究成果をまとめ論文として発表した(*)。また、仔への攻撃行動を誘発するフェロモンを受容する、『仔フェロモン受容体』の検索を開始した。 (*) Kashiko S. Tachikawa et al. “Behavioral Transition from Attack to Parenting in Male Mice: a Crucial Role of the Vomeronasal System” J Neuroscience. 33(12):5120-5126, 2013.
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