研究課題/領域番号 |
23700422
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 美佳子 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60444402)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 重症筋無力症 / アセチルコリンエステラーゼ / Collagen Q |
研究概要 |
重症筋無力症(MG)にはアセチルコリン受容体(AChR)抗体によるものと筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体によるものが、抗MuSK抗体による分子病態機序は十分に解明されていない。CollagenQ (ColQ)のC末端は神経筋接合部のMuSKと結合し、N末端はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と複合体を形成している。現在までにMuSKとColQの結合についての病態への関与に関する報告はない。本研究では、AChEをシナプス基底膜に係留するColQとの結合を抗MuSK抗体が阻害する可能性を検証した。 抗MuSK抗体陽性患者及びコントロールとして抗AChR抗体陽性患者の血清から、IgGを精製し、抗MuSK抗体のColQとの結合の影響を調べる3種の実験を行った。(1)マウス筋切片に対するin vitro overlay assayにて、抗MuSK抗体存在下ではColq-/-マウス筋組織上のMuSKに対してColQの結合を阻害した。(2)in vitro plate-binding assayを用いて抗MuSK抗体のMuSK-ColQ結合が阻害された。(3)患者抗MuSK抗体を用いて受動免疫マウスモデルを作成し、その筋組織切片の神経筋接合部ではAChE活性、及びColQの量が減少していた。以上から、患者抗MuSK抗体がMuSKとColQの結合を阻害することで、シナプス間隙のAChEの減少やシナプス後膜のシグナル変化をもたらし、MGが発症すると考えられる。MuSKはLRP4とも結合しており、AChRのクラスタリングに関与しているため、今後、抗MuSK抗体のagrin-LRP4-MuSKシグナル伝達系に与える影響を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗MuSK抗体による重症筋無力症の分子病態機序を解明するため、抗MuSK抗体がAChEをシナプス基底膜に係留するCollagen Qとの結合を阻害するのではないか、という仮説を立て、実験を行った。 まず抗AChR抗体陽性患者の血清からIgGを精製し、マウス筋切片に対するin vitro overlay assayを行い、抗MuSK抗体存在下においてはマウス筋組織上のMuSKに対してColQの結合を阻害した。次に、in vitro plate-binding assayを用いて抗MuSK抗体はMuSK-ColQ結合を阻害した。さらに、患者抗MuSK抗体を用いて受動免疫マウスモデルを作成し、その筋組織切片の神経筋接合部ではAChE活性とColQの量が減少していた。 以上の結果から、抗MuSK抗体は、シナプス後膜のMuSKとそれに係留するCollagen Qとの結合を阻害し、シナプス間隙のアセチルコリンエステラーゼが減少して、シグナル伝達障害が引き起こされることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
アセチルコリンレセプター(AChR)のクラスタリングはagrin-LRP4-MuSKのシグナル伝達により行われる。本年度は抗MuSK抗体の存在により起こるAChRのクラスタリングの影響を、ColQとの結合阻害による作用と、抗体の直接的なMuSKの作用について明らかにする。 ColQはAChR β-subunit やRapsynの発現を調節しており、ColQ-MuSKの結合が阻害されると、それらの分子の発現変化や、MuSKの活性及びAChRのクラスタリングが不十分になることが予想される。ColQがMuSKと結合することによる、MuSKシグナル伝達系の変化を調査し、抗MuSK抗体によりColQとの結合阻害時の分子変化を明らかにする。また、抗MuSK抗体によりMuSKとAChRβ-subunitのリン酸化は上昇するが、クラスタリングは逆に減少する。抗MuSK抗体はagrin刺激により起こるMuSKリン酸化とは別の作用を及ぼすと考えられる為、抗MuSK抗体によるリン酸化部位の特定を行い、エンドサイトーシス誘導分子Nsfへのシグナル伝達やAChRのクラスタリングを誘導する分子の変化を調べ、抗MuSK抗体による神経筋接合部のシグナル変化とAChRのクラスタリングの関係を明らかにすることを目指す。 また、抗MuSK抗体によるMuSKのリン酸化部位と活性化を特定する為、agrin刺激によりリン酸化されるY553のリン酸化状態を調査し、チロシン各部位のmutant MuSKを発現させ、抗MuSK抗体によるカイネース活性能を調べる。次にMuSKエンドサイトーシス誘導因子NsfをsiRNAによりノックダウンした筋芽細胞C2C12において、AChRクラスタリングの回復を定量し、AChRのリン酸化を誘導するHSP70,HSP90βのリン酸化、AChR構成に関わる遺伝子発現動態を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
シグナル伝達経路を探索するために必要な消耗品、具体的には組織培養器具、培養試薬、ディスポ器具、プラスティック器具類、抗体、酵素、キット類、マウス、マウス飼育器具、解剖器具等である。受託での抗体作製も予定している。他に、成果発表のための学会参加や研究会参加の出張を数回予定している。
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