研究課題/領域番号 |
23700424
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
深井 順也 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (50543774)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 悪性脳腫瘍幹細胞 / 血管内皮前駆細胞 / がん分子標的治療 |
研究概要 |
本研究の目的は、悪性脳腫瘍幹細胞と血管内皮前駆細胞に着目し、これらに共通する細胞内シグナル伝達分子の発現を解析して新しい分子標的治療戦略として有望な標的分子を探索することである。本研究の主要検討課題は悪性脳腫瘍幹細胞研究と血管新生研究とに大別できるが、その実施計画に従い平成23年度は悪性脳腫瘍幹細胞研究を実施した。まず、悪性神経膠腫の手術摘出サンプルから初代培養細胞を樹立し、ニューロスフェアー法を用いて悪性神経膠腫幹細胞を単離した。この細胞群をフローサイトメトリー法で解析すると、CD133陽性細胞が高率に含まれていた。スフェアー形成細胞を血清含有培地で培養したのちに免疫染色すると、ニューロン/アストロサイト/オリゴデンドロサイトのマーカー分子をそれぞれ発現する細胞が確認できた。このCD133陽性細胞をNOD-SCIDマウスの脳内へ移植すると腫瘍が形成された。次に、リアルタイムPCR法を用いて神経および血管の発生・分化関連遺伝子群の細胞内シグナル伝達経路(Eph/ephrin、Hedgehog、Notch、Wnt、TGFβなど)の発現を解析した結果、いくつかの治療標的候補分子の発現上昇を確認した。この中で、Transcriptional Factor(TCF)の高発現に注目した。そこで、siRNA技術を用いてTCF発現をノックダウンしたところ、MTSアッセイで増殖能の低下、スクラッチアッセイで移動能の低下が確認できた。イムノブロッティングで、PI3K/Akt/mTOR経路の抑制が特徴的であった。RT-PCR法で、VEGFなどの血管新生因子の発現が低下する傾向にあった。以上の結果から、TCFは悪性神経膠腫幹細胞の腫瘍原性に重要な役割を果たしており、その発現・機能を抑制することにより抗腫瘍効果がもたらされることから、悪性脳腫瘍幹細胞に対する治療標的候補分子の一つとして期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、悪性脳腫瘍幹細胞と血管内皮前駆細胞に共通する重要な細胞内シグナル伝達分子の発現を解析して新しい分子標的治療戦略として有望な標的分子を探索し、その発現調節による腫瘍自体への直接的抗腫瘍効果と血管新生抑制による間接的抗腫瘍効果を検討することである。本研究の主要検討課題は、悪性脳腫瘍幹細胞研究と血管新生研究とに大別できるが、平成23年度は、主として悪性脳腫瘍幹細胞研究を実施する計画であった。具体的には、悪性グリオーマ手術摘出サンプルおよび同サンプルから樹立した初代培養細胞を用いて悪性脳腫瘍幹細胞を単離し、その生物学的特徴を解析し、治療標的分子を探索することであった。平成23年度に実施した悪性脳腫瘍幹細胞研究においては、これまでに行った研究および予備実験で確立済みの悪性グリオーマ手術摘出サンプルから樹立した初代培養細胞、そして悪性グリオーマ幹細胞の培養実験系を一部利用した。また、脳内移植マウスモデルについてもこれまでに経験済みであった。本研究で検証した治療標的候補分子の一部は、自験データおよび文献的報告から選定済みあった。各種アッセイ方法についても、経験済みであった。そこで、悪性脳腫瘍幹細胞に対する有望な治療標的候補分子を証明した。以上の理由から、平成23年度の研究計画はほぼ予定通りに実施され、研究の目的は達成された。本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の主要検討課題は、悪性脳腫瘍幹細胞研究と血管新生研究とに大別できる。平成23年度は、主として悪性脳腫瘍幹細胞研究を実施した。引き続き、平成24年度は、血管新生研究を遂行する計画である。具体的には、ラット骨髄から単離した血管内皮前駆細胞およびヒト血管内皮前駆細胞を用いてその生物学的特徴を解析し、本年度の悪性脳腫瘍幹細胞研究の結果で発現上昇を確認したいくつかの治療標的候補分子に対して、血管内皮前駆細胞におけるその発現調節による血管新生抑制効果について検討する。血管内皮前駆細胞の培養実験系も確立済みで、皮下・脳内移植マウス・ラットモデルについても実証中、各種アッセイ方法についても経験済みの実験系で、本研究を推進する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究費は、おもに悪性脳腫瘍幹細胞研究のために使用する計画である。この研究の結果から発現上昇を確認したいくつかの治療標的候補分子の中で、同年度においてはTranscriptional Factor(TCF)の高発現に注目し、その発現調節による抗腫瘍効果を検討した。引き続いて平成24年度においても、他の治療標的候補分子に対して、同様の実験系で、その発現調節による抗腫瘍効果を検討する予定で、このために研究費を使用する計画である。また、当初の計画通り、平成24年度の研究費は血管新生研究を遂行するために研究費を使用する計画である。
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